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監修者

二村 祐輔

日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
東洋大学 非常勤講師
二村 祐輔

1953年生まれ。葬祭実務に約18年間従事して2000件以上の事例を体験。1996年に葬祭コンサルタント事務所を開設し独立。同時に「日本葬祭アカデミー教務研究室」を主宰し、関連企業のコンサルタントや納骨堂の建立など、その営業企画に参与。2006年、都内の専門学校に「葬祭学科」を創設(文科省認可)し、葬祭を教育の一環とした。年間100件を超える講演があり、テレビにも多数出演。著書・監修書に『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』(池田書店)、『60歳からのエンディングノート』(東京堂出版)、『身内が亡くなった時の手続きがまるごとわかる本』(晋遊舎)など多数。日本葬祭アカデミー教務研究室のホームページはこちら

時代の変遷とともに変わる葬祭のあり方。簡略化されたお葬式は善か悪か――。

身内だけで送り出す家族葬や、お葬式をせずに火葬だけ行う直葬など、現代では、さまざまなお葬式のかたちが生まれています。参列者を家族だけに絞ったものや、お葬式を行わず、火葬だけを行うものも浸透し始めました。
たしかに、これらのサービスの価格は安価ですし、参列者が少ない分、遺族の身体的負担も減るので便利なのかもしれません。ですが、利便性や合理性といった即物的な見方で、亡くなった人を送り出してよいのでしょうか?

人が亡くなるというのはその人の存在が無になるということなので、死者の魂を手立てし、また遺された人は死という事実を受け入れなければなりません。その契機となるのがお葬式です。

お葬式には、人間が本能的に死に対してどのように対応していくのかという習俗的な考えが反映されています。亡くなった人の亡骸をどのように扱うのか、という問題をひとつとっても、土に埋めたり火で焼いたり、はたまた鳥に食べさせたりと、その対応は地域や宗教によって異なりますよね。

また、地域共同体において死という事実に対してどのように折り合いをつけていくのかという社会的な考えも、お葬式には反映されています。人が亡くなると、それによって生じた穴をどのように修復し、共同体を再構築していくのかという問題が発生するわけです。

これまで二村さんが執筆・監修した本の一部

そもそもお葬式というのは、亡くなった人の魂を鎮めるための儀式である「葬儀」と、遺された人が亡くなった人に対してお別れをいう「告別式」から構成された儀式のことです。

そして、お葬式には2つの側面があります。1つは、亡くなった人の魂がどのようなかたちで手立てされていくのか、ということ。もう1つは、遺された人たちが死という事実をいかにして受容していくのか、ということです。

利便的かつ合理的なお葬式は鎮魂できるのか?

そうしたなか、時代によって、どちらの側面をより重要視するかが変化してきました。利便性や合理性、主体性が重視される現代では、亡くなった人よりも遺された人たちのことを考えたお葬式のかたちが主体になっているのです。

そのような時代に登場したのが、家族葬や直葬です。地域共同体の崩壊と核家族化が進んだことによって、人間関係が希薄になり、習俗的かつ社会的なお葬式の価値を認識する機会が少なくなってしまいました。
少し前までは、お葬式といえばご近所さんの力も借りて行い、共同体に空いた穴をみんなで修復していく姿勢がそこにはあったのですが、今ではそんな機会もあまりないでしょう。なので、死者への弔いの気持ちよりも、手軽で安価な面を重要視して、簡略化されたお葬式を選択する人が増えているのです。

もちろん、そうしたお葬式のかたちを否定するつもりはありません。日本の社会がそのように変化しているのですから、お葬式の様相が変化していくのも当然。従来通りの盛大なお葬式がよいわけでも、簡略化されたお葬式が悪いわけでもありません。ですが、みなさんにはお葬式の本来の意味や役割を知ったうえで、それらを選択してほしいのです。

後継者がいなくて荒廃した墓(瀬戸内海塩飽諸島佐柳島)。現代人の葬祭への知識不足がこのような事態を招いていると二村さんは語る

葬祭を知ることが、活き活きとした人生へとつながる

そのような思いから立ち上げたのが日本葬祭アカデミー教務研究室です。葬祭とは、「葬儀」と「祭祀」から成る言葉。つまり、お葬式とお墓、供養の3点に特化して情報を発信したり、学びの場を提供しています。

学びは何歳になっても大切なものです。知識を得ることで日常生活の見方も変化しますし、暮らしの愉しみが増えると思っています。日本にはせっかく四季があるのですから、四季折々の美しさや季節の移ろい、またそれに合った生活の知恵を学ぶことで、人生が豊かになるのではないでしょうか。
雨が降り続き、ジメジメする梅雨でもすっきりとした気分で過ごすための工夫や、その季節ならではの風情を味わう方法を知っていたら、見える世界がよい方向に変わるはず。その学びのひとつとして、葬祭を捉えてほしいのです。

二村さんが2019年9月に岩手県久慈市で開催された葬祭セミナーの様子。お葬式への不安を解明する内容や費用や進行についてのセミナーを行っている

葬祭を学ぶ場として、年間100以上もの講演やセミナーを行っています。参加者は女性が多いのですが、なかには夫を連れてくる方もいらっしゃいます。日本において死に関する話題はタブー視される傾向にあるので、夫婦であっても話す機会を見つけられない人も多いのではないでしょうか。

人間は社会的な動物なので、人が亡くなったら死後の手続きが必ず発生します。生前に自身の供養方法や相続などの意向を話しておくことで、遺された人がそれらの手続きを行いやすくなるのも事実。ですので、夫婦や家族で死後のことを話す場所としてセミナーを活用してほしいとも思っています。

また、子や孫など世代を継承していく人たちに自分たちのお墓について話をしたりしておくのも、お墓の荒廃を防いだり、先祖代々の供養を守るために重要です。話しづらいのであれば、お墓に行く日をイベント化して、ワイワイ和やかな雰囲気で過ごす日の行事のひとつとして、お墓参りを取り入れるのもよいのではないでしょうか。

日本葬祭アカデミー教務研究室
〒102-0081
東京都千代田区四番町6-3-311
電話:03-5215-5767
お問い合わせ: https://www.jf-aa.jp/contact/index.html

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