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安全に介護をするための部屋づくり

「片づけ」のプロが実践した義母宅の捨てない片づけ

特集 暮らしの新陳代謝を高めよう――住まいを整える。心と体を整える。 2020.12.16

取材・文:出口夢々

突然始まる介護。「その前に部屋を片づけたり、モノを捨てたりしないと」と思いながらも、なかなか取り組めない人も多いかもしれません。
そこで、ライフオーガナイズを学んで活動しており、ご自身も介護の経験がある野田弥栄子さんにインタビュー。介護のための安全に配慮した心地のよい空間づくりの方法と、モノは捨てずに残したほうが心地よい関係と空間をつくれると野田さんが考えるようになった経緯を伺いました。

 

介護生活は突然始まる

 

——野田さんは片づけのプロとして活動する傍ら、義母の介護もされていました。介護のために部屋を片づけたりと、準備はされていたのでしょうか?

義母の介護は突然始まったんです。義母はパーキンソン病を患っているのでいつか要介護になるというのはわかっており、何も準備していないわけではありませんでした。ですが、実際に介護が始まるきっかけとなったのは出先での骨折でした。突然、近所のスーパーから電話がかかってきて、「お義母さんがエスカレーターから落ちて骨折したから、病院に搬送された」と言うんです。慌てて病院に駆けつけると、骨を折って歩けなくなってしまった義母の姿がありました。その日から介護がスタートしたんです。

退院して介護が始まると、家にたくさんの人が訪れます。自治体から派遣されるケアマネジャーさんが来たり、担当のヘルパーさんを誰にするか決めるために訪問介護の方が何人か来たり、介護用ベッドの設置のためにベッド会社の方が来たりと、人の出入りが途端に増えるんですよね。ですので、まずは家に来た人が必ず足を踏み入れる玄関と、義母の居住スペースを片づけました

玄関は、整理整頓をして、段差の場所を確認しておく程度の片づけで問題ありません。介護が始まった後に手すりをつけたり、段差をなくしたりする工事をしたので助成金をいただけました。ですので、気をつけるべき場所だけ確認しておいて、後は必要になったら工事を検討すればよいと思います。(※)
※助成金については市区町村の制度を確認してください。

ただ、問題は居住スペースです。義母は合理的な人でもともと「今使っていないモノはすべて処分しちゃっていいよ」と言ってくれていたので、介護が始まったときの片づけは本当に楽でした。でも、モノに囲まれていることが幸せな人もいますよね。私の実の母がそうで、きれいな包み紙やパッケージをとっておきたいタイプなんです。側から見ると「使わないんだから捨てちゃえばいいのに」と思うモノでも、本人は大事にしているからとっておいてあるんです。そこで無理矢理片づけようとすると、人間関係が破綻する可能性もある。

今家に置いてあるモノは、その人の人生そのもので、すべてが宝物なんですよね。食費を節約しながら苦労して集めたモノや、がんばって働いた記念に買ったモノなど、所有している本人にしかわからないモノへのエピソードがあるはずなので、他人がむやみやたらに触っていいものではない。ですので、今から少しずつコミュニケーションを大切にしながら片づけを進めるとよいと思います。

 

モノは無理に捨てなくてもいい

 

——「捨てたくない」という思いに寄り添うのですね。

はい。でも、介護が始まったら、本人の気持ちを尊重するとともに、安全も確保したいですよね。ですので、居住スペースを片づけるときは、下の6つのポイントだけは守るようにしてください。

①と②はモノに躓かないようにするための片づけです。④も介護の有無に関係なく実践していることだろうと思います。ポイントは③、「本人が少しずつ立てる環境をつくる」です。

これは私の実体験に基づくのですが、私の不在中に義母が部屋のなかで転んでしまい、立ち上がれなくなってしまったことがあったんです。身体の自由が効かなくなると運動量が減るので、腕の力だけでは起き上がれなくなっていたんですね。なので、万が一転んでしまったときでも、何かに掴まりながら立てるようにあえてモノを置いておくのも大事だと学びました。時間がかかってもいいから、少しずつ自力で立てる環境をつくっておくと介護する側も家を空けるときに少し気が楽ですよね。

また、何かあったときのために携帯電話を用意しておいたり、生活に必要なモノは見える場所に置くことによって、介護が必要な人も安心して過ごせます。

この6つのポイントを頭に置きながら、少しずつ片づけてみてください。居室のモノが多く安全を確保できないのであれば、ある程度選別をして、大事なモノはそのまま部屋に、今は部屋に置いておく必要がないと思うモノは捨てるのではなく、別の部屋に移しておけばいいです

コミュニケーションなしに片づけをしてしまったら「嫁が入ってきて、私のモノをみんな処分してしまった」と思われかねません。こちらは善意で行っていたとしても、そこで意思疎通ができていないと、よかれと思ってやったことがすべてマイナスになってしまうんですよね。ですので、コミュニケーションと相手へのリスペクトを持ちながら片づけに取り組んだほうが、自分も気持ちよく作業できると思います。

——無理に捨ててモノを減らすのではなく、あくまでも安全な状態で介護する導線を確保するために片づけるのですね。

そうですね。介護が必要になったからモノを減らした結果、心がなんだか虚しくなってしまった、なんてことになると寂しくありませんか? 介護が始まったということは、介護される人にとっては家で過ごす時間が長くなったということです。それなのに、自分が愛着を持っていたモノが家からどんどんなくなってしまうのは寂しいですよね。

ですので介護が必要になったら、まずは「本人はどういう介護生活を送りたいと思っているか」「どういう介護生活を送らせてあげたいか」を考えるとよいと思います。その話し合いの結果、部屋にはモノが溢れて散らかっていたとしても、お互いが「いい人生を送れた/見届けられた」と思えればいいと思うんです。

私は義母と同居をスタートさせるときに片づけのノウハウを学びたいと思ってこの道に入ったのですが、お客さまの部屋を片づけているうちに、心地よさが何よりも大切だと気づいたんです。モノが散乱しているほうが落ち着いた気持ちで暮らせる人もいれば、部屋のなかにあるモノの数が少ないほうが心地よく暮らせる人もいる。

「心地よさ」は人それぞれなので、安全さえ確保できれば、あとはその「心地よさ」をいかに叶えるかというポイントで片づけをすればいいと思います。使っていないモノでも、本人がそれを目にすることで心地よく暮らせているのなら、そこに置いておけばいいんですよね。

「外部の人が入ってきたときに見られてもいいと思えるか」「本人が安全に過ごせるか」、この2つだけ守って、本人が楽に過ごせる部屋をつくってみてください。

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野田弥栄子

18年間の専業主婦ののち、2011年、築35年の家をリフォームし、同時にスタートした義母との同居をきっかけにライフオーガナイズを学ぶ。現在義母は介護ホームに居住中、その経験を生かしフリーで活動している。片づけに無頓着で、片づけを学ぶという概念もないまま主婦になっていたが、学んだことにより、自分を知り、 自分の価値観にも気づき、モノと人との関わりから、一人一人の価値観を大切にすることは、人生においてとても重要と感じる。
たかが片づけされど片づけ。過去の介護経験を生かし、さまざまな取り組みをしている。
野田弥栄子