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俳人・夏井いつき「種田山頭火賞」受賞 「おもいがけないとは、こういうこと」

映像を言葉で切り取ってみる。俳句というのはそういう文芸

連載 魂の俳句 2021.11.03

信念を貫いた生き方で多くの人びとに感動を与えた文化人・表現者を顕彰する、「種田山頭火賞」。第4回となる今年の受賞者は俳人・夏井いつきさん(64)に決まり、10月27日(水)にオンラインで授賞式が行われました。

このオンライン授賞式に、ZIEL編集部として参加させてもらったので、一部様子をお届けします。

 

おもいがけないとは、こういうこと

 

授賞式では夏井さんのスピーチや、記念品の贈呈、質疑応答などが行われました。

受賞にともない夏井さんは、「おもいがけないとは、こういうことなのだなと。『なぜ私が?』という思いしかなかったんですけど、こういう理由でというお話を聞いて、『もりもり盛り上がる』という書をいただいて、そういうことなんだと、いろいろなことが腑に落ちた気がしました。俳句の都・松山を拠点に日本中の子どもたちからご年配の皆さんまで、“俳句の種をまく” という活動をひとつのライフワークとして続けてきました。松山という場所に暮らしていたから、俳句を生業として生活することができましたし、うっかりシングルマザーになったりもしたんですけど、子どもたちを育てることができたのも松山という土地のおかげ」と、笑みを浮かべました。

夏井さんが在住している愛媛県松山市は、正岡子規や高浜虚子など、偉大な俳人を多く排出した街として知られています。また、街中には句碑や文学碑も数多く建てられていることからも「俳句の都」と言われています。

記念品として、書家・富永鳩山さんが揮毫した山頭火の句「もりもり盛り上がる雲へあゆむ」の書、目録、『新編 山頭火全集』(春陽堂書店)が贈られました。句は夏井さんをイメージして選定したそうです。

種田山頭火賞を受賞された俳人・夏井いつきさん

 

夏井さんに質問をぶつけてみました!

 

夏井さんは俳句集団「いつき組」を創設していますが、「いつき組」とは組織ではなく、「俳句って楽しい!」と思えば誰でも組員と名乗れる集団です。そうした地道な “俳句の種をまき” 活動をとおして活躍の場を広げ、バラエティ番組『プレバト!!』では芸能人が詠んだ俳句を辛口添削して人気に。また、2020年4月にはYouTubeの「夏井いつき俳句チャンネル」を開設し、誰もが俳句を楽しめる動画を配信しています。

夏井さんに質問ができるこんな機会はありません! ZIEL編集部として質問させていただきました。

 

Q1 :自分の理想に忠実に生きるために意識されていることは何ですか?

夏井さん「自分の理想という輪郭をきっちり自分で引いていないような気がして。いろんな出会う人とか、たまたま訪れた偶然とか、そういうものが集まってきて『そうか、次私はこういうことをやるべきなのか』とか『このためにあの出来事があったのか』とか常にそう思いますので、出会った人や起こった出来事を大事に扱っていくというのでしょうか。そんなむずかしい質問はやめてください」

と笑いながら答えてくれました。
すみません、困らせるような質問をしてしまって……!(笑)

オンライン授賞式というこちらの顔が見えない状況下で飛んできた質問に対して、戸惑いながらも真摯に答えてくれた夏井さん。まさに偶然を大切にしてくださったと感じました。そして本当に感謝しております!

俳人・夏井いつきさん

 

Q 2:感じたことを俳句に落とし込む際、何を大切にされていますか?

夏井さん「感じたことというのは、人間の五感。目とか耳とか匂いとか、そういうものが自分の脳に入ってきて、何かの思いを構成するものだと思っています。脳と外の景色をつないでくれるのが、目や耳、鼻、手触りだったりしますので、『感じたことをどう書くか?』というよりは、『なぜ私はこれを感じたんだろう』『何を見たから、何を聞いたから、こういう想念が動いたのだろう』と考えます。俳句というのは、その感じたことのもとになる光景、景色、匂いを言葉で再生する作業だと思っておりますので、私に何かを感じさせた映像を言葉で切り取ってみる。俳句というのはそういう文芸だと思っています

と答えてくれました。
そう言われてみて、改めて連載「魂の俳句」で取り上げてきた俳句を鑑賞したところ。

た し か に。

「感じた」ことではなく、そのときの光景や状況をそのまま17音の言葉に乗せて表現していました。

俳句の連載記事を書くたび、「このときこの句を読んだ俳人は何を考えていたの?」「この句に秘められた思いは何なの??」「何で大事なことを言ってくれないの???」と、俳人たちに対して思ってしまったことをここで謝らせてください。

しかし、ここで気づいたのです。「俳人たちが見てきた光景を、私たちも見れるってことじゃん!」と。そう考えると、「もっとフラットな心で俳句に触れてもいいのかも!」と思えるようになりました。今後はまた違った視点からも鑑賞できそうな気がして、見事に俳句に心惹かれている、そんな今日です。

夏井さんのおかげで私はここでまた1つ、俳句への理解が深まりました。貴重な機会になりました。

オンライン授賞式や、夏井さんと作家・嵐山光三郎さんとのスペシャル対談の様子は、春陽堂書店のYouTubeにてご覧いただけます! この機会にぜひ観てみてください。

▼第四回種田山頭火賞授賞式&夏井いつきさん×嵐山光三郎さんスペシャル対談

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