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本と珈琲 梟書茶房|新しい思考と出合う――。

未知なる本が自分を変える

特集 自分をあたらしくする 2020.7.17

取材・文:出口夢々

本を読んで心動かされたり、考えを改めさせられたりした経験は誰にでもあるはず。未知なる思考や感情は、物語が教えてくれるのです。つまり、普段手に取らない本を読むことが、自分をあたらしくするきっかけになるはず。

東京・池袋にある梟書茶房は、出合ったことのない本に出合う機会を提供すべく、オリジナルのブックカバーを本に巻き、タイトルも著者名も出版社もわからない状態で本を販売しています。そこで、ドトールコーヒーの常務取締役・菅野眞博氏とともに梟書茶房をつくった、かもめブックスの代表・柳下恭平さんに取材し、ふくろう文庫のコンセプトや楽しみ方を伺いました。

 

みんなが自分の読みたい本を買える書店

 

――梟書茶房に並ぶ「ふくろう文庫」は、タイトルや著者名、出版社名など、一般に本を選ぶときに参考にする情報がすべて隠され、本の推薦文を同封し、袋とじにしています。一般的な書店では本を買う前に得られる情報が梟書茶房では手に入らないわけですが、どうしてそのような仕掛けをされたのでしょうか?

柳下:限定的な情報だけ得られるようにしているのは、お客さまに未知の本に出合う機会を提供したかったからです。

そもそも梟書茶房は、「あらたな本との出合い」というコンセプトのもと、つくられました。情報が溢れている現代社会において、あえて本を読む人は少なくなってきていますよね。
スマホひとつで、新聞も読めるし映画も観れるし、友人と連絡もとれる環境において、本を手に取るのはハードルが高いのかもしれません。

というのも、映画や音楽などとは違って、読書は能動的に取り組まなければ物語が進みません。
また、本の内容を理解してその世界観を楽しむためには、少なくとも20~30分はまとまった時間を確保して、読書という行為に集中する必要があります。忙しい現代人にとって、本を読む時間を確保するのは難しいのではないでしょうか。

柳下恭平さん

とはいっても、本はすばらしいコンテンツです。普段の生活では味わえない経験を与えてくれたり、新しい思考と出合える場所でもあります。なので、ハードルが高くなってしまった読書という行為を、もっと馴染みのあるものにしたいと考えていました。

また、本を読むのはいいことだとわかってはいても、実際にどの本を買えばいいかわからない人も多いのではないでしょうか。本屋に行っても結局1冊も買えず帰ってきてしまう――。そんな経験をしなくてすむように、という思いから生まれたのが、ふくろう文庫なのです。

ふくろう文庫を選ぼうと思ったときに得られる情報は、僕たちかもめブックスのチームが書いたその本の推薦文だけ。表紙もあらすじも著者も出版社も発刊日も不明だと、得られる情報の少なさに現代人は困惑してしまうかもしれません。
ですが、推薦文を読んでそこから推測される内容をもとに本を選ぶ環境だと、その本のジャンルや表紙、カテゴリにとらわれずに本を選べるので、出合ったことのない本に出合う機会となるのです。

本棚に並ぶふくろう文庫。ブックカバーで情報が隠され、推薦文から本の内容を推測する(推薦文のほとんどは柳下さんご本人が書いたそう!)

――実は、プライベートで何度か梟書茶房に来たことがあるのですが、「本を買ったはいいけど好きじゃない内容だったらどうしよう」という不安から、いつも何も買わずに帰ってきてしまうんです。

柳下:推薦文を読んでビジネス書や組織論が書かれた本かなと思って買い、家に帰ってカバーを外すと実は時代小説だった、なんてこともあるかもしれません。時代小説は普段読まないからと敬遠している人でも、推薦文がおもしろそうだから買っているわけですし、内容は気になっているはず。なので、カバーを外したときの驚きとは裏腹に、物語にはがっつりハマれると思います。
本のラインナップとしても、普段本を読む習慣がない人でも読みやすくおもしろい本を揃えているので、安心して買ってみてください(笑)

 

本選びのコツは自分の心の声を素直に聞くこと

 

――ふくろう文庫を選ぶときのコツはありますか?

柳下:まずは、カバーに書いてある推薦文を読んでみて、気になったものを手に取ってみてください。もしくは、赤いブックカバーで包まれている「はじまりの24冊」のなかから選ぶのもおすすめです。
これらの本はふくろう文庫のなかでもとりわけ読みやすい、初心者向けのものを取り揃えているので、1冊目にぴったりです。

「はじまりの24冊」。これらは赤色のブックカバーで巻かれている

本棚には「読書処方箋」というポップを置いていて、いま自分が抱えている感情や気持ちから本を選べるようになっています。自分の心のいうことを素直に聞いて、本を選ぶのもおもしろいのではないでしょうか。

また、ふくろう文庫は1231種用意しています。これは自分の誕生日から本を選べるようにするためです。たとえば、6月17日生まれの人だったらNo.617の本を選ぶ、というような楽しみ方もできるんですよ。これは人に本をプレゼントするときにも選ぶ基準になりますね。

――1231種もあるんですね! 一般的な書店と比べたら数は少ないですが、これから増やしていくのですか?

柳下:いえ、本のラインナップを変えるつもりはありません。だって、1231種って1カ月10冊、年間120冊ペースで読んでも読破するのに約10年かかるわけです。それって相当な読書家じゃないと、ここにある本を読み切れませんよね。「ここにある本を読破するのが目標!」といってくださるお客さまもいるので、読破した人がでない限りは変えないかな(笑)

また、ブックカバーを巻いて購入前に得られる情報を限定するだけでなく、物理的に数も限定することで「選ぶ」という行為が容易いものになると思うんです。「どの本を選べばいいかわからない」「本がありすぎて読みたいと思える本を見つけられない」といった現象をなくすために、あえて1231種に限定する必要があるのではないでしょうか。

毎月設定されたテーマに沿って僕が選んだ本とドトールコーヒー常務取締役・菅野さんがブレンドしたコーヒーを楽しめる「珈琲と本のセット」もおすすめです。
「エピローグ」や「偏愛」、「楽園」など、テーマになっている言葉が想起させる物語を僕が選んで、菅野さんがその物語のイメージに合わせてコーヒーをブレンドしてくれるんです。

これはかなり自由に選ばせてもらっているので、「今日はふくろう文庫の気分じゃないな」なんて日には、ぜひ注文してほしいですね。ちなみに、「エピローグ」がテーマのときには、『大長編ドラえもん6  のび太の宇宙小戦争』をピックアップしました(笑)

本と珈琲のセット(1500円+税)

 

6つのエリアからお気に入りの場所を探す

 

――梟書茶房は6つのエリアからなっていますが、柳下さんのお気に入りのエリアはどこですか?

柳下:僕は森の部屋が好きです。大きな窓から射す光が気持ちよくて、心地よく読書を楽しめます。図書エリアも好きですね。『池袋ウエストゲートパーク』の舞台を眺めながら本を読めるので、なかなか乙です。

梟書茶房のフロアマップ
柳下さんお気に入りのエリア・森の部屋。やさしい質感の木でつくられた家具がほっこりした気持ちにさせる

柳下:エリアが6つに分けられているので、好きな席を選べといわれてもどこに座ればいいのかわからないかもしれません。そんなときは、一人で来たならアカデミックエリアで本と向き合い、友人らと来たならラウンジのソファーでゆっくり珈琲や食事を楽しむのがおすすめです。
何度か来て、自分のお気に入りの場所を見つけられたら、その日の気持ちに合ったふくろう文庫を読んで、新しい自分に出合うきっかけを得てもらえたら嬉しいですね。

梟ブレンド(500円+税)とフレンチシフォン(700円+税)

 

店舗情報
本と珈琲 梟書茶房
東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola(エソラ)池袋4F
営業時間:10:30~22:00(L.O.21:30)
TEL:03-3971-1020
ホームページ: https://www.doutor.co.jp/fukuro/

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