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「作家」気分が味わえる! 真似したい天才たちの日々のルーティン

人生を楽しくする教養としての「一日のルーティン」

連載 人生を楽しくする教養としての〇〇 2021.9.20

文:金丸信丈、安彦航平

文豪気取りで伊豆の旅館に長期滞在——などと考えて夏季休暇に旅館を予約するも、仕事の予定がズレて早々に帰宅。ただの忙しない旅行に終わってしまった……。私が何度となく繰り返している残念な経験のひとつです。
そこで本稿では、気軽に試せる「天才の一日」を紹介します。
とりあえず、次の日曜日は村上春樹になったつもりで一日過ごしてみます!

 

天才たちの実は普通だったりする一日

 

ある書籍の編集を行っていた際に、参考資料としてある本が目に入りました。そして、仕事中にも関わらず、つい読みふけってしまった次第で……。周りの目を盗んで読んだその本とは、メイソン・カリー著の『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(フィルムアート社、2014年)です。
タイトルからもわかる通り、本書ではゴッホやモーツァルト、ヘミングウェイやアインシュタインなど、世界的に知られる芸術家や作家、学者たちがどのように日々の仕事や創作活動に向かっていたかが紹介されています。
彼らの意外なこだわりや習慣、信条を知れば、これまで彼らに対して持っていたイメージがきっと覆されることでしょう。また、それらを自分でも実践してみることで新たな気づきが得られるかもしれません。
ふと目の前に現れた「何もない」一日。予定も何もない。そんな日は「天才たちの一日」を真似してみてはいかがでしょうか。
まずは日本が誇る作家のひとり、村上春樹からです。

 

作家生活には精神的な鍛錬だけでなく体力も必要である——村上春樹

 

1979年に『風の歌を聴け』でデビューし、『ノルウェイの森』や『海辺のカフカ』、『1Q84』など多くのベストセラーを生み出してきた村上春樹(1949〜)。世界でも高い評価を受けていることから、ノーベル文受賞の受賞を毎回期待する声も多い彼ですが、旺盛な執筆活動の裏側には非常にストイックなルーティンがありました。

そのルーティンとは、朝は4時に起床し、その後5、6時間ぶっ通しで仕事をした後、午後はランニングか水泳、またはその両方をし、雑用を片づけ、読書をし、音楽を聴き、21時にはベッドに入ってしまうというものです。「この日課を毎日、変えることなく繰り返します」、2004年の『パリス・レビュー』(1953年にパリで設立された文芸雑誌)で彼はそう語っています。

村上春樹 1日の生活ルーティン
※ちなみに、上の表には朝食が入っていませんが、『考える人』(新潮社、2010年8月)でのインタビューによると、7時ごろにチーズトーストなどを食べるそうです

村上いわく、小説(特に長編)を書き上げるために大事なのは精神の鍛錬だけではありません。なぜなら、同時に体力も必要だからです。1981年、それまで経営していたジャズバーを人に譲り、専業作家になることを決意した彼ですが、執筆に専念していると急激に体重が増えていきました。また、当時は1日にタバコを60本も吸っていたこともあり、決して健康的とはいえない状態でした。

そこで、生活習慣を根本から改めなくてはならないと決意した村上は、妻と田舎に引っ越しました。また、タバコをやめ、お酒の量も減らして、食事も野菜と魚中心に変えました。そのころ毎日のランニングも始めましたが、これまでに世界各地のフルマラソンやトライアスロンなどに挑戦し続けてきました。このことは世間でもたびたび取り上げられているので、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

これらの習慣によって一気に健康的な生活になり、それは執筆活動にもよい影響をもたらしました。そのことは、村上がデビュー以来数々の傑作を生み出してきたことからも明らかでしょう。
しかし、このルーティンには唯一欠点があります。それは、人付き合いが悪くなることです。たしかに、自分のルーティンを第一に行動していると、他人からの急な誘いも断らざるを得ませんし、9時に就寝してしまうのですから、夜遅くまで友人と飲むなどもっての外です。ただし、彼はそれでも構わないと言います。なぜなら、それよりも大切にしているのは読者との関係だからです

村上は次のように述べています。

「読者は僕がどんなライフスタイルを選ぼうが気にしない。僕の新しい作品が前の作品よりよくなっているかぎりは。だったらそれが、作家としての僕の義務であり、もっとも優先すべき問題だろう」

この作家生活と読者とを第一に考える態度やストイックな生活習慣こそが、彼が次々に名作を世に送り出してきた秘訣だといえます。
小説を書くには優れた独創性(ひらめき)や思考力が必要なので、作家はとにかく頭を使うものだというイメージが一般的には強いかもしれません。ただ、パソコンで文字を打つにしても、原稿用紙に手書きするにしても、長時間座って仕事をするには体力が要ります。特にデスクワークをしていた人は毎日痛感されていたことだと思いますが、仕事以外でも本を読んだり手紙を書いたりなど日常的に机に向かう機会は多いですから、ときどき運動をして体が鈍らないようにすることは大切です。

……というわけで、早寝早起きこそが「村上春樹への第一歩」です
作家というと不摂生な印象がありますが、健康的な日々を過ごしているんですね。

 

毎週ひとつの徳を達成して道徳的に完璧な人間になる——ベンジャミン・フランクリン

 

アメリカの政治家で独立宣言を起草し、「時は金なり」(“Time is money”)の名言でも知られるベンジャミン・フランクリン(1706-1790)は、自伝のなかで「道徳的に完璧な人間になる」方法について書いています。道徳的に完璧な人間というと大げさに思われるかもしれませんが、例えば、食べすぎたり飲みすぎたりしない(「節制」)というように、良識や節度をもち合わせた人間のことを意味します。

具体的には、13週間、毎週ひとつの徳を達成することに専念し、その徳に反することをしたときにはカレンダーに記入していくというものです。徳というのは、先ほど挙げた節制のほか、「勤勉」(時間を無駄にせず、有益なことに使う)や「誠実」(自分の発言や行動で人を騙したり傷つけたりしない)など、全部で13項目あります(「13徳目」の呼び名で世間的に知られているのはそのためです)。

フランクリンによれば、ひとつの徳に1週間専念すればそれは習慣になります。その後、次の徳を達成することに専念し、これを続けていけば、違反(徳に反すること)もだんだんと減っていき、13週間後には自分をすっかり変えてしまうことができるのです。あとは徳を維持するために、ときどきある期間だけ打ち込めばよいと言います。実際、彼はこの方法で自分を完全に変えてしまったそうです。

しかし、「すべての物をあるべき場所に収め、すべての用を時間どおりにすますこと」(「規律」)だけはなかなか身につかなかったようです。なぜなら、もともとフランクリンは書類などをきちんと整理しておくのが苦手で、片づけようとしてもうまくいかず、イライラしてしまうことが多かったからです。
また、当時彼は印刷の仕事(12歳で兄ジェームズの印刷業を手伝い、その後も植民地の人気雑誌『ペンシルベニア・ガゼット』を買収し、アメリカ初のタブロイド誌を発行します)で忙しかったこともあり、予定通りに物事が進まないことが多かったそうです。

そんなフランクリンが掲げた理想の1日のスケジュールは次のようなものです。朝は5時ごろに起き、顔を洗ってから神に挨拶。その後、仕事の算段をつけ、「今日はどんなよいことをしようか?」と自問し、今日の決意を固めます。次に、現在進めている研究をやってから、朝食をとった後、仕事に入る。お昼は読書をしたり、帳簿に目を通したりしてから昼食をとり、再び仕事に取りかかります。仕事が終わったら整理整頓をし、夕食をとってから、音楽を聴いたり、娯楽に興じたり、誰かと雑談をしたりします。1日の締めくくりには「今日はどんなよいことをしたか?」と反省し、20時ごろにベッドに入ります

ベンジャミン・フランクリン 1日の生活ルーティン
※上の表は『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』に掲載されているものを参考に作成したものです

また、フランクリンは晩年、毎日の「空気浴」(冷たい空気を浴びること)を生活に取り入れました。当時、世間では冷水浴が体によい刺激を与えると考えられていましたが、彼は刺激が強すぎると考え、それよりも冷たい空気を浴びることにしました。彼は、朝早くに起きると、部屋のなかで裸になり、30分から1時間、読書や書きものをしながら冷たい空気に当たりました。あまりに心地よいので、そのままベッドに戻って1、2時間眠ることもあったそうです。
フランクリンの言う「道徳的に完璧な人間」は誰しもなりたいものですよね。しかし、最後の「部屋で裸になる」というのは家族がいる人にとっては難しいかもしれません。その場合はベランダや庭で朝の冷たい空気を浴びるのでもよいと思います。

……というわけで、練る前に今日したよいことを振り返ることが「フランクリンへの第一歩」です

ところで、村上春樹もそうですが、フランクリンのルーティンを見ても、いかに日々の生活に気を遣うことが大事であるかがわかります。天才というからには、どんな破天荒な一日を送っているのかと期待したものですが、意外と「普通」です。と言いつつ、一日だけ切り取ると普通でも、毎日続けるとなると、実は至難の業のようにも思え、さすが天才だとあらためて認識する次第です。

今回は『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』で紹介されている2人の天才を取り上げました。本書では、このほかにも数多くの歴史上の偉人や有名人が紹介されているので、興味をもった人はぜひ読んでみてください。

 

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