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今読みたい! 長岡弘樹『夏の終わりの時間割』

意外な真相に心救われるミステリー

連載 ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本 2021.8.17

文:出口夢々

編集部が新刊本を紹介する連載「ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本」。毎月の特集テーマと関連のある内容のものを選び、紹介していきます。

第10回目に紹介するのは、2021年7月15日に発売された長岡弘樹の『夏の終わりの時間割』。夏休みに起こった放火事件をめぐる短編小説「夏の終わりの時間割」を含む、計6作品を収録した短編集です。

 

「夏の終わりの時間割」のあらすじ

世間では夏休みに入ってもう1カ月ほど経ちました。学生時代の夏休みといえば、宿題。ドリルに読書感想文、ポスターづくりに自由研究と、かなり分量のある宿題が出されていた気がします。私は7月中にすべて終わらせて、8月は毎日海で遊んでいましたが、みなさんはいかがでしたか?

毎日コツコツ少しずつやる人もいれば、8月の最終週に猛ダッシュで終わらせる人もいましたよね。なかには9月になっても提出せず、そのままなかったことにする強者もいましたが、私は「やらなきゃいけないことがある」という強迫観念にかられて、早めに終わらせていました。

そして、中学生、高校生になると襲いかかってくるのが受験勉強。夏休み明けにある模試に向けて、1日7時間以上勉強をする日々……思い出すだけで気が重くなります。どの教科も満遍なく勉強できるように、9時から10時は国語、10時から11時は数学、11時から12時は英語……と、タイムスケジュールを決めていました。我ながら真面目ですね(笑)。

考えると「よくやっていたなあ」と過去の自分を褒め倒したくなりますが、当時は限りある時間をより有意義に使うために必死に取り組んでいました。

「夏の終わりの時間割」に登場する19歳の信くんも、時間を有意義に使うために毎日時間割を決め、遊んでいました。1時間目にサッカー、2時間目に卓球、3時間目にゲームと、1時間ごとに異なる遊びをすることで、「お得感のある1日」を過ごしたいと考えたのです

そんな真面目な信くんが、近所で多発している放火の犯人ではないかと警察から疑われてしまいます。信くんは少年期の発熱が原因で精神年齢が10歳程度で止まっており、他人の目から見てよくわからないところがありました。それに加えて、百円ライターを集めるのを趣味にしていたことが、警察の疑いを強くしてしまったのです。

自分はやっていないと主張する信くん。ですが警察はその言葉を信用せず、信くんを尾行するようになります。困った信くんは「死ぬ間際の人は、絶対に嘘をついたりしない」と友達から聞いたのをきっかけに、自身を瀕死状態に陥らせることに決めます

信くんは以前スズメバチに刺されたときにアナフィラキシーショックで倒れたことを思い出します。今回は自ら森に入り、スズメバチに刺されることにしたのです。決行日は警察が決まって信くんを尾行する木曜日。次の木曜日が来るまでに目一杯遊んでおきたいと思い、時間割を決めて遊んでいたのでした。

信くんはスズメバチに刺されて瀕死状態になってしまうのか、そもそも真犯人は誰なのか——物語の行き先を追う手が止まらない作品です

表題作「夏の終わりの時間割」のほかに、震災失業した男性が再雇用先で奇妙な仕事を任される「三色の貌」や、介護福祉士が認知症患者たちを笑顔にしようと奮闘する「空目虫」など5編を収録した『夏の終わりの時間割』。どの物語も終盤、まるで予想外の方向から意外な真相が飛んできます。そこでやっと、物語の真意を悟るのです。きっとすぐ、最初から読み直したくなるでしょう。私も読み終わったそばから、同じ作品を読み直しました。

結末を知ったうえで物語を再度読むと、“意外な真相” のヒントとなる道標がそこかしこに散りばめられていることに気づきます。初読時には何も思わなかった一文に「うわっ、そういうことだったのか……!」と感激させられるのです。

何度も読み返すことでどんどん味が出てくるスルメのような本作。作者は木村拓哉さん主演でドラマ化された『教場』も書いた、長岡弘樹さん。長岡さんのクセになる物語展開に注目です!

 

書籍情報
長岡弘樹『夏の終わりの時間割』(講談社文庫)
定価:620円(+税)
発売日:2021年7月15日
ISBN:978-4-06-523683-3
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000351758

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