人生を豊かに彩るWEBマガジン

香りの力で日常を豊かに――。お香入門

自然由来のやわらかな香りが暮らしを彩る

特集 自分をあたらしくする 2020.7.27

取材・文:出口夢々

何気ないひとときに香りをプラスしたり、お客さんを招くときにかぐわしい香りで迎えたり――。毎日の暮らしにお香を取り入れることで、一味違う日常を楽しめるかもしれません。ですが、敷居が高いイメージがあり、お香を始めづらいと思う人も多いのではないでしょうか。

そこで、「匂い香づくり教室」の開催や、ミニサロン「ひととき」の運営など、お香の販売だけでなくお香の普及活動も行われている松栄堂さんに、初心者でも楽しめるお香の使い方をうかがいました。

 

まずはスティックタイプから始める

 

仏教伝来とともに日本に伝わってきた「香」。仏教儀礼として私たちの生活に加わってから、平安時代の貴族のあいだでは教養として香料の調合が行われ、江戸時代には中国からお線香の製造技術が伝わり、貴族や武士だけでなく、町人もお線香を使うようになりました。現代ではさまざまな形状のお香が登場し、より使いやすく、そして誰でもお香を始めやすくなっています。

そのなかでもっとも手軽に始められるのが、直接火をつけ香りを広げるタイプのお香です。

スティックタイプ・渦巻型・円錐型の3つのかたちがありますが、まずはスティックタイプから始めてみて、もう少し長い時間香りを楽しみたいのであれば渦巻型を、より濃厚な香りを求めるのであれば円錐型を、というようにお好みに合わせて使い分けてみてください。

スティックタイプ
7cmのものであれば、燃焼時間は15~20分ほどなので、短時間で香りを楽しめます。また、香りが均一に広がりやすい特徴があるので、場所を選ばず、初心者でも上手に香りを楽しめます。

渦巻型
渦を巻いたかたちになっているので、燃焼時間が2時間20分ほどと長いのが特徴。広い空間や、空気の出入りの多い玄関などでの使用がおすすめです。

円錐型
燃焼面積が広いので、短時間で濃厚な香りを漂わせられます。広い空間はもちろん、お手洗いなど香りをしっかり残したい場所での使用がおすすめです。

 

自分にとって心地よい香りは人それぞれ

 

お香の原料はすべて自然由来のもの。樹皮や花蕾、果実などを乾燥させ、香料として使用しています。それらは東南アジアや中国、インドを中心に産出されており、どれも日本の環境では香りが育まれない植物です。ですので松栄堂では、専門のスタッフが現地へ赴き原料を選定しています。

松栄堂で使用しているお香の原料の一部。上段左から、乳香、竜脳、桂皮、下段左から、丁子、山奈、大茴香、貝香

松栄堂で用意している香りの種類は100種以上。そのなかから自分の好みに合った香りを見つけるために、まずは気になったものを試すことから始めてみましょう。
火をつける前と後では香りの感じ方が変わるので、火をつける前の香りだけで判断せず、店頭で購入する場合は火をつけてもらい香りを確認し、そのときに感じる香りが、自分によって心地よいものを選びましょう。
暑い季節は、涼やかな香りやスパイシーでカラッとした香り、肌寒くなってからは、重く甘い香りが人気です。

暑い季節におすすめのお香。左から、澄んだ水と大気を感じられるような透明な香りのマリン、ミントティのような涼やかさがあるペパーミント、果汁の鮮やかな酸味とほろ苦さがあるグレープフルーツ(880円、各20本入り)※いずれもXiang Doシリーズ

白檀の控えめな甘い香りに華やかさが添えられた、芳輪 二条(660円、20本入り)

みずみずしい花や木々のエッセンスを親しみやすい香りにブレンドした香水香 花世界 エコー。ラベンダー・バイオレット・サンダルウッドの詰め合わせ(1650円、3種各20本入り)

 

香木や印香の香りを楽しむ

直接火をつけるタイプのほかにも、香炉で香木や練香、印香を間接的に温めて香らせる方法もあります。香木や練香、印香などは直接火をつけるのではなく、炭や電気香炉などを用いてお香をあたため、香りを広げるので、よりやわらかい香りを感じられます。8畳程度の部屋での使用がおすすめです。
香木をたけば、素材そのものの香りが、練香や印香をたけば、調合師が調製した複雑な奥深い香りが部屋中に漂います。

熱源である炭からの距離(それもミリ単位!)で香りの強さが変わるので、炭を用いる香炉だと温度調整がむずかしいもの。そこで、温度調整を簡単に行いたい場合は、温度管理のしやすい電気香炉の使用がおすすめです。

◆香木・練香・印香の楽しみ方

・用意するもの
香炉、灰、炭、火箸、お香

①炭をおこす
マッチやライターなどで炭に火をつけ、灰のうえに置きます。そのまま5分ほど待ちましょう。
②灰をあたためる
炭が半分ほどおこったら、灰に浅くうずめて灰をあたためます。
③お香をのせる
灰が熱くなったらお香をのせ、たきましょう。

香老舗 松栄堂の京都本店・薫習館

 

教えて! お香の悩みQ&A

 

お線香とお香って何が違うの?

――お線香は、お香のなかの1タイプ。お線香イコール仏壇で使用するもの、ではありません。ですので、スティック状のお香であれば、何でもお線香と呼んでも間違いではありません。“The お線香の香り”なお香を部屋で楽しんでもよいのです。

お香はいつたけばいいの?

――「香りがほしいな」と思ったときにたきましょう。休みの日に本を読んでいるときや、メイクをするとき、寝る前にリラックスしたいときなど、自分の気持ちに合わせて楽しむのがベスト。お掃除の後に爽やかな香りのものを焚いて、部屋全体をさらにスッキリさせるのも。

お香の香りよりも煙の匂いが気になる!

――直接火をつけるタイプのお香は、燃焼しながら香りが広がるので、煙の匂いがしてしまうのは仕方ないもの。ですが、あまりにも煙の匂いが気になるようであれば、香りを広げたいところから少し離れた場所でたいたり、ある程度空気の流れがある場所でたくと、煙が逃げ、香りだけを感じられます。

お客さんを招くときにさりげなく香りを広げる方法は?

――お香を焚いている最中だと、どうしても煙が出てしまうので、たき終わったタイミングでお客さんが来る、くらいの時間を見計らってたくと「いい匂いで迎えられた」という印象を与えられます。残り香を漂わせられるように、お客さんが到着する5~10分前にたき終わるようにするとよいです。

同じ香りをたいていたら鼻が慣れた気がする……。

――ずっと同じ1つのお香だけたいていると、どうしても鼻が慣れてしまいます。なので、好きな香りばかりたくのではなく、好きな香り1種類プラス2~3種類のお気に入りの香りを用意して、バランスよくたくようにすると鼻が香りに慣れにくくなり、長く香りを楽しめます。用意しておく香りをすべて系統の異なる香りにしておくと、さらに効果的です。

企業情報
香老舗 松栄堂
京都に創業して300余年。伝統に培われた豊かな経験値・情報力・技術力…… そこから生み出されるのは、宗教用の薫香をはじめ、茶の湯の席で用いる香木やお線香、お座敷用の高級線香や手軽なインセンス、匂い袋など「香百般」。また出版やワークショップなど、さまざまな文化活動を通じて、香り文化の継承と発展にも取り組んでいます。
ホームページ: https://www.shoyeido.co.jp/
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