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ものの整理は心の整理——ものの価値をつなぐ「生前整理」の方法

大事にしているものを、大事にしてくれる人に引き継ぐ

特集 暮らしの新陳代謝を高めよう――住まいを整える。心と体を整える。 2020.12.09

取材・文:花塚水結

大事にしているものを、引き継いで大事にしてくれる人を見つけられる「エステートセール」。アメリカで生まれたこのシステムは、一部の国では一般的な生前整理の方法になっています。

株式会社ポジティブシンキングの堀川一真さんは、アメリカでエステートセールを知り、日本での展開を始めました。ものを手放す人へ安心の提供と、日本の文化を全世界へ発信すべく、日々事業に取り組んでいます。
「施設に入居するから捨てなきゃいけない」「もう歳だから不要なものを手放さなければいけない」——。そう思っている方へ、エステートセールという新しい選択肢の提案です。

 

価値を伝えるエステートセール

花塚:エステートセールとは、どんなものなのでしょうか?

堀川:エステートセールとはアメリカや北米で一般的な生前整理の方法です。
実際にお客さんが家のなかに入って、好きなものを買っていくという方式で、フリーマーケットをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

花塚:フリーマーケットとは、何が違うのでしょうか?

堀川ものの価値を決める人が、ものの所有者ではなく、プロのエステートセラーであるという点です
古いアンティーク雑貨などに、プロが一つひとつ目を通して、そのものがいつの時代に誰によってつくられたのかを鑑定し、正しい価値をつけます。販売時にも立ち合い、お客さんにそのものの歴史を語りながら、販売を進めるのがエステートセールですね。

花塚:なるほど。フリーマーケットは低価格で買えることが魅力の1つですが、エステートセールは本来の価値で取引を行っているんですね。
先ほど、このエステートセールはアメリカが発祥だとおっしゃっていましたが、堀川さんはどのようなきっかけでエステートセールを知り、日本で展開するようになったのでしょうか?

堀川:私はアメリカの大学に留学後、現地でアンティーク品の買いつけを行う仕事をしていました。
ある日、買いつけの師匠であるグレッグから「日本ではものをどのように処分しているの?」と聞かれ、「すべて捨てているか、売りに行っても二束三文にしかならない」と答えました。すると「そんなことをしていたら、日本の文化が崩壊する」と言われたのです。

アメリカでは、1970年ころから核家族化が拡大し、市場経済主義へと変化していきました。夫婦だけの世帯だと多くのものが不要になりますが、何でも安価で売ってしまっては本来のものの価値が伝わりません。
ですが、アメリカではエステートセールが普及していてエステートセラーがものの価値を説明してくれるので、ものの価値が一般の人にも伝わっているんです

価値あるものをちゃんと継承しないと、ものの価値を知る機会がなくなってしまいます。その結果、文化がなくなってしまう——グレッグの言葉をきっかけに、エステートセールを日本で展開しようと思いました。

編集部・花塚(左)、堀川さん(右)

堀川:2000年に日本に帰国してから10年間は、日本でエステートセールを展開するためにどのようにしたらいいだろうと日々考えていました。

花塚:アメリカのシステムそのままでは、日本で展開できなかったのでしょうか?

堀川:ただの販売代行のようなかたちでは、普及はしないなと思いました。

花塚:なぜ普及しないと思われたのですか?

堀川:海外の人と日本人では、ものに対する気持ちの面で大きく異なるからです。
花塚さんは、ご両親が大切にしていたものを捨てることはできますか?

花塚:家族が大切にしていたものかぁ……。躊躇してしまうと思います。

堀川:おそらく、日本人にはそういう人が多いと思うんです。
海外は、ものはもので大切にするけど、ものに対する気持ちは別。だから、思い出や気持ちがものの処分に関わることはありません。
でも日本では先ほど花塚さんも言ったように、ものと心が一体化しているのです。「家族が大切にしていたものだから捨てられない」という考え方が何よりの証拠ですよね。
ですから、日本では単なるものの整理ではなく、ものと一体化している心の整理を行うことでお客さんが前向きになれるサービスを展開しようと思いました。

 

日本国内だけでなく、海外に向けて日本の文化を発信

花塚:実際に堀川さんが日本で展開されているエステートセールとは、どのようなしくみなのでしょうか?

堀川:お預かりしたものを、1点ずつ写真をとって、リサーチリストを作成し、インターネットで公開・販売します。売れたものの代金の50%をお客さまに還元するしくみです。
販売は、国内と海外に向けて行っていて、国内はヤフオク、海外はeBayで出品しています。eBayとは、全世界1億8000万人が利用しているインターネットオークションです。

堀川さんが作成しているリサーチリスト。お客さんから預かったものがどんな商品なのかを写真つきで説明、販売をしている

堀川:そして、現在はエステートセール専門のサイトをつくっている最中です。このサイトでは、私の講座を受講してライセンスを取ったエステートセラーのみが販売利用できます。価値あるものがちゃんとした価値がつけられて売ることができるサイトなので、全世界のお客さまに安心して日本の文化を購入していただけます。

花塚:全世界の方々の目に触れられると考えると素敵ですね。

堀川:はい。同時に、日本のいい文化を世に発信することもできます。海外の方は、日本の文化が大好きなんですよ。
さらに、海外の方には新しいものの使い方を提案して、以前より多くの人に受け入れてもらっています。

花塚:新しいものの使い方とはどのようなことでしょうか?

堀川:たとえば、着物。日本ではだんだん需要が減ってきていますが、海外の方からの人気は高いんですよ。着物をシルクのナイトガウンとして提案しています。
また、着物の帯はテーブルランナー、古い火鉢はワインクーラーとして新たな価値を吹き込んでいます。

花塚:人気だとはいえ、本来の使い方では使用の幅が狭いですからね。とてもおもしろいです!

堀川:でしょう。これこそ、クールジャパンだと思います。

 

生前整理は人生を前向きに生きるために行うこと

花塚:実際にものを手放したいと考えている場合、どのような手順になりますか?

堀川:まずは私に連絡をもらえればと思います。その後、お電話で手放したい理由を大まかに伺い、お客さまのご自宅にお邪魔するかたちになります。実際に話を聞いてみて、手放したほうがよいと感じたら、ものをお預かりします。

花塚:堀川さんが「ものを持っていたほうがよい」と感じるのは、どのようなときですか?

堀川:ものがその人にとって大きな価値があると感じたときですね。

先日、横浜市に住んでいる高齢者の自宅に伺ったときのことです。
その方のお父さんのコレクションがたくさんあり、処分したいとのことでした。すると、その方が「見て! これ気持ち悪いのよ!」と言って両手に乗るくらいの大きさのカエルの置き物を見せてきたんです。私がその置き物を確認してみると、江戸時代の名工・鈴木正直の作品でした。今でも鈴木正直の作品は人気が高く、3センチくらいの小さなキーホルダーでも市場価格25万円くらいするんです。
直正の作品は「本物をも騙す」と言われているように、気持ちが悪いと感じるほど、リアルで精巧な作品です。

きっと、骨董品が好きなお父さんが大切にしていたものに違いないと思い、きちんと説明し、お父さんの形見として大事にしていたほうがいいと伝えると、その方も驚いて手元に置くことを決めてくれました。

花塚:ものの価値がわかると、所有者の気持ちも想像できますね。

群馬県のお客さんから預かった扇子がロシア人の方に大事にされている

堀川:はい。私たちのエステートセールでは、安心感を提供したいと考えています
そのため、自分に何かがあったとしても、価値をつないでくれる人がいると伝えるようにしています。

何も預からずに帰ってくることもありますよ。田園調布に住む高齢者から「ものを手放さないといけない」と連絡をもらい、自宅に伺いました。
普段はご近所の方々と集まって、好きなもの同士を交換して楽しんでいたそうなのですが、それでも「手放さなければいけない」と考えていたそうです。

大切にしているものを見せてもらうと、素晴らしいアンティーク品がいっぱいありました。きっと、コレクションしたりお友達と交換し合うことが本当にお好きなんだなと感じたので、この方はものを持っておいたほうがいいなと感じました。

「無理に捨てずに持っておいてもいいんですよ。エステートセールを利用してもらえれば、ほかの方に価値をつなぐことができますから、万が一、何かがあれば連絡をください」と言ったら、「断捨離しなくていいのね! よかった!」と言っていました。この方にとっては、「ものを持っておくこと」が幸せだったんですよね。

花塚:本当は手放したくなかったのですね。

堀川:そうなんです。当社ではものが売れたら月に一度、報告書を送っています。「どこの国のどんな人が買ってくれたよ」とお客さまに伝えると、本当に喜んでくれるんです。
ものを手放すこともそうですが、手放したあとでものが粗末に扱われてしまうのも苦しいんですよね。

花塚:自分が大事にしていたものを、大事に引き継いでくれる人がいるのはうれしいことですね。

堀川:はい。「生前整理」という言葉がありますが、単なる「片づけ」という意味ではなく、「人生を前向きに生きるための片づけ」だと思っています。しかし、今の日本では「片づけ」という意味が浸透しているため、処分しか選択肢がないわけです。

よく「終活」と言われますが、私は「集大成の活動」という意味で「集活」だと思っています。大事にものの価値をつないでくれる人が見つかる「エステートセール」をもっと広げて、人生の最後まで安心して生きられる社会にしたい——そう思っています。

 

誰かに引き継いで大事にしてほしいもの、家族が大事にしていたから捨てられないものはありますか? コメント欄で教えてください。

 

企業情報
株式会社ポジティブシンキング
〒371-0007 
群馬県前橋市上泉町2845-2
電話:0120-834-141
FAX:027-269-7029
ホームページ: https://www.positivethinking1.com/estatesale
お問い合わせ: http://www.positivethinking1.com/inquiry

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堀川一真

株式会社ポジティブシンキング代表。1965年大阪府高槻市生まれ。30歳で一念発起し、アメリカオクラホマ州のUniversity of Centrral Oklahomaへ入学。卒業後帰国、妻の父の経営するインテリア専門会社にてカーテン・アンティーク輸入・絨毯・陶磁器等の企画・販売に従事。2008年、米国生前整理方法エステートセールの日本への導入を企画。国内・海外インターネット上での販売を開始する。前向きに生きる事を前提とした「物・心・情報」を整理し、家財道具・美術品・骨董品・自動車・不動産までワンストップで販売・売却する日本流エステートセールを本格展開している。得意なことは、家の模様替え、古い物の修理、ブルースギター、大勢の人前で話すこと、​トイレ掃除。
堀川一真

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