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バッグを見れば世界の歴史がわかる アクセサリーミュージアム「IN ~ハンドバッグとその中身~」

文化とともに進化してきたハンドバッグ

特集 私の好きな名作 2021.9.23

取材・文:花塚水結

先日アップした記事「世界中のアクセサリーが集結『アクセサリーミュージアム』」で紹介したアクセサリーミュージアムでは、企画展「IN ~ハンドバッグとその中身~」が開催されています。

そこで、編集部の花塚が潜入。学芸員の北村理沙子さんにお話を伺ってきました! 人類の文化と深く関係し、どの年代も職人技が光るハンドバッグ100年の歴史とは?

 

100年以上の歴史があるハンドバッグ

 

ハンドバッグの始まりは19世紀、ヴィクトリア時代まで遡ります

フランス革命後、女性のあいだでは体に沿ったシルエットのドレスが流行します。それまで女性たちは、ドレスの下に穿いているアンダースカートに付随しているポケット(スリット)や結びポケットに荷物を収納していましたが、腰回りのすっきりとしたラインや生地の薄いドレスでは、ポケットにものを入れられなくなりました。そこで、「レティキュール」と呼ばれる刺繍などで装飾された袋が登場します。レティキュールとは、巾着袋のように口についている紐や鎖などを引っ張って口を閉じ、その紐を取手にする袋で、これが本格的なハンドバッグの先駆けと考えられています

レティキュール
※展示は緊急事態宣言解除後

その後、クリノリンスタイルなどスカートを大きく見せるファッションも流行しますが、レティキュールは20世紀初頭まで使用されていました。

また、レティキュールのほかに同時代の女性たちの荷物運びを支えていた、「シャトレーヌ」と呼ばれる道具もありました。ウエストバンドまたはベルトから下がるチェーンにペンや指ぬきなど家のなかで使うものを下げたもので、中世から女性のファッションと用途に寄り添い、さまざまな素材でつくられました。

シャトレーヌ。ペンやハサミなどが直接ベルトに引っ掛けられている

また、19世紀の終わりころからリングメッシュでつくられたバッグやパース(小銭入れ)が流行します。リングメッシュは、リングを一つひとつ組み合わせてつくる手間のかかる高価なもので、小銭や香水、花弁(ポプリ)を入れて楽しみました。

リングメッシュの小銭入れ

こうして荷物を持ち運ぶための袋はいくつかつくられてきましたが、「ハンドバッグ」という名前が初めて文献に載ったのは1862年のこと。
1840年代はじめに交通・通信網が驚異的に発展を遂げ、それまで限られた人々しかできなかった旅行が大衆化、列車で旅する際のチケットや書類を入れる手荷物用のハンドバッグがつくられました

1854年には、フランスの高級ファッションブランドであるルイ・ヴィトンが世界最初の旅行用トランク専門店をオープンし、箱型のトランクを売り出します。旅行の大衆化が進むとともに、民衆と持ち物の差別化を図りたいと考える王侯貴族のため、品質や素材にこだわった、一線を画すブランドが登場。その後、多くの高級ブランドが出現してくるきっかけとなりました。

20世紀になると豊富な種類のハンドバッグが登場します。
劇場へ出かけるときは、オペラグラス、扇子、鏡、パウダーパフ、コインパース、チケットなどを収納する仕切りがついたオペラバッグもありました。

アール・デコスタイルの革のハンドバッグ(1920-1930年代)。左下のバッグはオペラ鑑賞用のもので、オペラグラスと扇子を入れるスペースが設けられている

第一次世界大戦で男性が戦地に出ると、女性たちは外で働くようになり、化粧品をハンドバッグに入れて持ち歩くようになります。化粧品を直接ハンドバッグに入れることも多かったため、バッグの内側が口紅で紅くなってしまうこともあったそうです。

そのような背景から、1920年代に「ヴァニティーバッグ」と呼ばれる化粧品専用のハンドバッグがつくられました。ヴァニティーバッグは日本の印籠(薬草や香りをつけた水などを入れる仕切りつきの小箱)からヒントを得たもので、なかには鏡、パウダー、頬紅などが入れられるようになっています。

左から5つ:ヴァニティーバッグ(1920年代)、右端:ミノディエール(1930年代)

 

素材にもこだわっていた

 

ハンドバッグが生まれた当初は革でつくられた製品が多くありましたが、ハンドバッグを所持する女性たちが増えるにつれ、多様な素材や装飾を施したハンドバッグがつくられるようになりました。そのうちの1つが、ビーズ刺繍を使ったものです

1920年代まではビーズの質がとてもよく、特に、コンテリエビーズと呼ばれる大きさ約1mmのガラスのビーズは貴重なものでした。とても小さなビーズなので、扱うには相当の集中力と労力が求められるため、コンテリエビーズが使用されたハンドバッグは高価なのです
1930年代になると、ビーズが少しずつ大きくなり、マイクロビーズを使ってきちんと縫える職人がいなくなってしまったため、現在ではつくられていません。

コンテリエビーズが使用されたハンドバッグ。付属しているコインケースと鏡も展示されている

シャーロットビーズを使ったハンドバッグも流行しました。シャーロットビーズとは、ビーズの一部分がカットされているビーズのことをいいます。このビーズに光があたると、とても上品に光が反射して、キラキラ輝きます

シャーロットビーズが使用されたハンドバッグ。スマホのライトなど、さまざまな角度から光をあてると上品な輝きが生まれる

また、1960年代くらいまでのパーティー用の高級ハンドバッグには、コインケースと鏡が付属されているものも多くありました。当時、女性がパーティーで財布を出すことはほとんどありませんでしたが、チップ代を入れるためのコインケースが用意されていたようです。

ダンスするためのクラッチバッグ(1920-1930年代)。1920〜1930年代に流行したクラッチバッグには背面に「ダンスストラップ」がついているものも多く存在し、舞踏会などで相手と踊る際に手の甲や手首にはめてダンスに興じていた

1920〜1930年は人工的なプラスチックが発明され始めた時代で、さまざまなものがプラスチックでつくられるようになりました。そのなかの1つで、「ルーサイト」というプラスチックでつくられたハンドバッグもあります。第二次世界大戦後に製作され、その後10年以上アメリカのファッションシーンを彩りました。

ルーサイトでつくられたハンドバッグ

元々、ルーサイトは戦闘機の風防に使われていた素材でしたが、ルーサイトをつくっていた会社が「もう争いのためには使ってほしくない」との想いからハンドバッグをつくり始めたそうです。ハンドバッグの起源を辿っていくと、歴史や産業発展にも深くかかわっていることがわかります

日本では特にハンドバッグの質がよかったフランス製品の鞄を模倣したり参考にしたりして、鞄がつくられていました。国産のハンドバッグが鑑賞できるブースもあるので、こちらもぜひ鑑賞していただけたらと思います。

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世界中のアクセサリーが集結「アクセサリーミュージアム」

展覧会情報
「IN ~ハンドバッグとその中身~」
会場:アクセサリーミュージアム
会期:2021年12月11日(土)まで
観覧料:1000円
開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)※
最寄り駅:祐天寺
HP: http://acce-museum.main.jp/
※特別イベントの場合は変更になることがあります

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