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編集者・依田邦代さん「グレイヘアは今の自分を肯定する生き方のあかし」

変わりゆく髪色を楽しむ。グレイヘアのすすめ

特集 自分をあたらしくする 2020.7.29

取材・文:出口夢々

年を重ねると、どうしてもシミやしわ、白髪の増加など加齢が出る部分が気になる。年をとって髪が白くなり、恥ずかしいと思っているあなた。そのグレイヘアは、あなたの積み重ねてきた人生の象徴です。自分を否定せず、ありのままの姿を肯定するのも、ひとつの生き方ではないでしょうか。

白髪染めをせずに、自分のありのままの髪色を活かしたヘアスタイルであるグレイヘアを発信している、フリー編集者の依田邦代さん。依田さんの自分をあたらしくした方法や、それにともなう心境の変化について、お話を伺いました。

 

白髪染めにうんざりする日々が生んだ「グレイヘア本」

 

――依田さんは編集者として、『パリマダム グレイヘア スタイル』や『グレイヘアという選択』(ともに主婦の友社)など、数多くの「グレイヘア本」を制作・編集され、世の中に発信されています。依田さんは、いつグレイヘアの魅力に気づかれたのでしょうか?

依田:私自身の白髪が目立つようになってきたのは40代後半。美容師さんに勧められるがままに白髪染めを始め、50代後半には3週間に1回の頻度で白髪染めをするようになっていました。
はじめはケミカルな白髪染めで、最後のほうはヘナで染めていたのですが、元々肌が弱いのも相まって、頭皮の乾燥やかゆみがひどくなっていたんです。眠っているときに無意識のうちに頭皮をかき、朝起きたら爪のあいだが真っ黒になっていたことも多々ありました。

このまま一生、3週間に一度美容院に行って白髪を染め直し、その度に頭皮の不快感に耐えなければならないのか――。ふとそう思ったときに、目の前が真っ暗になりました。
時間も美容室代もかかりますし、何より身体的負担がつらいから白髪染めをやめたい。でも、白髪のある髪は老けて見えるし、“現役感”も薄れてしまう。

この「やめたいけど、やめられない」状況に陥っていたときに目にとまったのが、2014年に編集を担当した『OVER60 Street Snap―いくつになっても憧れの女性』(主婦の友社)に掲載したスナップ写真です。

『OVER60 Street Snap―いくつになっても憧れの女性』(主婦の友社)に掲載されているスナップ写真

この本は、銀座や表参道を歩く女性シニアのファッションスナップ集なのですが、意識して見てみると白髪を活かしたおしゃれを楽しまれている方がたくさんいて。服だけでなく、アクセサリーや帽子までこだわりのアイテムを身につけている方ばかりなので、白髪が目立たず、むしろおしゃれの一部になっていると気づいたんです。

「もしかして、白髪を活かしたヘアスタイルの女性は素敵なのではないか。白髪=おばあさん、という認識を変えられたら」と思い、『パリマダム グレイヘア スタイル』をつくりました。

『パリマダム グレイヘア スタイル』(主婦の友社)

本は話題となり、TVや新聞などでも取り上げられましたが、みんなが実践するほどブームにはなりませんでした。というのも、確かにグレイヘアが素敵なのはわかるけれど、それはフランス人だからそう見えるのであって、日本人には似合わないのではないか、と思う読者が多く、グレイヘアを自分事として捉えてもらえなかったんです。
そこで、満を持して日本人のグレイヘアの方々を集めた『グレイヘアという選択』を出すことにしました。それが2018年のことです。

『グレイヘアという選択』(主婦の友社)

 

無理のない楽しい努力が自分を変える

 

――『グレイヘアの選択』の企画を立案されたときは、依田さんご自身もすでにグレイヘアだったのですか?

依田:いえ、そのときはまだグレイヘアにする覚悟が決まっていなくて、白髪染めをしていました。ですが、グレイヘアの本をつくっている人間が白髪染めをしているのでは説得力に欠けますから、本の発売日に合わせて私もグレイヘアにチャレンジしたんです。それが2017年の10月のことでした。

白髪染めをやめて気になったのは、周りからの視線です。白髪が1、2cmのときは「だらしない」とか「染めるための金銭的・時間的余裕もないのか」と思われているような気がして、必要以上に自意識過剰になっていました。

そこで取り入れたのが、ウィービングと呼ばれる、細い筋状にとった髪にハイライトとローライトを入れ、メッシュ風に染める方法です。黒髪の部分にはハイライトを、白髪の部分にはローライトを入れるので、黒髪と白髪の差がぼけ、白髪が目立ちにくくなるんです。これを2カ月に1回、美容室で行い、約半年の移行期間を乗り切りました。

依田さんが編集されたグレイヘア本の一部

また、移行期間中から力を入れ始めたのがヘアケアです。白髪を美しく魅せるには、ツヤが大切。
そこで、お風呂では洗い流すタイプのトリートメントを、お風呂から上がった後はスプレータイプのトリートメントを髪に吹きかけてから乾かし、最後にオイルトリートメントをつけるようにしました。
水道水に含まれる塩素が髪によくないと気づいてからは、シャワーヘッドを塩素除去機能のあるものに変えました。髪が濡れた状態のままというのもよくないので、お風呂から上がったらすぐに髪を乾かします。

――それを毎日行うのは、かなり大変……! ハードルが高いです。

依田:ケアの方法だけ聞くと、かなりの手間暇をかけないと美しい白髪を育てられないと思うかもしれません。
ですが、このケアは楽しい努力。白髪染めで白髪を目立ちにくくするのは、いうならばマイナスの状態を0の状態にする努力でしたが、白髪を活かして素敵なヘアスタイルにするのは、マイナスをプラスに変える努力です。

決して無理しているわけでもありませんし、何より自分を素敵に魅せるための手段なので、メンタルもポジティブになりました。
白髪染めの分の費用をヘアケアに回したので、特別にお金がかかるわけでもないですしね。

そのように移行期間を過ごし、白髪の長さがある程度出るようになってからは、解放感を味わえるようになりました
白髪に対する無駄な気遣いが不要になりましたし、グレイヘアがきまるようになると、周りからも「素敵だね」といってもらえる機会が増えたのです。

私は根はずぼらなので、まわりからの“いいね”という反応がヘアケアを続けるためのモチベーションアップにつながりました。
髪がきれいに見えるようにヘアアレンジをしたり、顔色がよく見えるように口紅を欠かさないようにしたりと、目につくポイントだけ頑張ると、無理せずにおしゃれに見えるのでおすすめです。

 

グレイヘアは自分を肯定した先にある姿

 

――グレイヘアになって、心身面に変化はありましたか?

依田白髪染めをしていない自分を、自分を欺いていない、嘘をついていない状態だと思えるようになったのが大きな変化です。
年を取ることを否定するのは、ありのままの自分を否定することになりますよね。それって、実は苦しいことだと思うんです。

というのも、いまの自分は、過去の自分の積み重ねによって形成された存在です。だから、いまの自分を否定するということは、それまでの人生を否定するのと同じこと。
グレイヘアの今の自分を前向きに受け入れることで、見た目だけでなく、気持ちもナチュラルになります。すると、表情も笑顔もすがすがしくなるんじゃないかしら。

また、明るい色が似合うようになったのも大きな変化ですね。グレイヘアだと、赤やピンクなども似合うようになります。顔に近いところに赤いアクセサリーを着けると効果的なのも発見しました。

もう年だからと、目立たない色のものを身につけて、背中を丸めて生きていてはもったいない。きれいな色の服を着て、アクセサリーをつけると、背筋も伸びて気持ちが前向きになるんです。
せっかく平均寿命が長い時代に生まれたのですから、ただ生きるだけではもったいないです。年を重ねることの楽しさを感じたいですよね。

依田さんが愛用しているacrylic(アクリリック)のイヤリング

グレイヘアはよく美人しか似合わないのでは?といわれたりしますが、そのようなことはなく、自信をもって年を重ねている素敵な大人なら誰でも似合うと思います。

年を取ることや老化を防ぐことはできないけど、年を重ねた自分を美しく魅せるなどポジティブに年を重ねる努力は誰にでもできる。そうした努力を積み重ねた結果として、素敵な大人が完成するわけです。

また、努力をし続けることで、自信が生まれます。自分で自分を日々アップデートしているイメージです。

せっかくの命ですから、これまでの自分もいまの自分も丸ごと肯定して、前向きに生きていきたい。せっかく女性として生まれてきたのだから、美しく年を重ねて、若い世代の人たちに年をとることに希望をもってほしい。そのような考えの象徴が「グレイヘア」だと思っています。

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依田邦代

編集者。1958年生まれ。1981年主婦の友社入社。雑誌編集長などを経て、書籍編集者に。『パリマダム グレイヘア スタイル』や『グレイヘアという選択』(ともに主婦の友社)など、シニア女性のライフスタイルにフォーカスした数々のヒット本を手掛ける。
依田邦代

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