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19世紀ロシア音楽への誘い

グリンカからロシア5人組、チャイコフスキーまで6曲を紹介

特集 自分をあたらしくする 2020.8.07

文:出口夢々

『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』で有名な、ロシアの文豪レフ・トルストイが活躍した19世紀。今でこそ、チャイコフスキーやラフマニノフ、ショスタコーヴィチなど、ロシア出身の作曲家やピアニストは世界中で広く愛されていますが、ロシアで自国の特徴を取り入れたクラシック音楽が成立したのは19世紀と、西欧と比べて少し遅れをとったものでした。しかし、そこにはトルストイが「自然で作為のないもの」と称賛しているロシアの民族音楽が組み込まれており、聴くだけでロシアの空気を感じられる旋律があります。

そこで、トルストイの『人生論』から幸福になるための生き方を考える記事(8月24日公開予定)に先駆けて、トルストイの生きた19世紀ロシア音楽の歴史を感じ取れるプレイリストをSpotifyで作成。これを機にロシアの空気感にどっぷりと浸かって、感性を刺激してみましょう。

 

#1 グリンカ 《イヴァン・スサーニン》

 

作曲者:ミハイル・グリンカ(1804-1857)
作曲:1835-1836年

「ロシア音楽の祖」と呼ばれるグリンカが初めて作曲した歌劇です。20代後半にミラノでピアニストになったグリンカは、その後ベルリンで音楽の勉強を続け、父の死をきっかけに祖国・ロシアに戻ってきました。西欧で音楽を学んだグリンカは、伝統的な西欧の音楽様式や和声法にロシア民謡調の旋律を取り入れ、それまでロシアでつくられてこなかった“ロシア的な”音楽の作曲に成功。《イヴァン・スサーニン》では、ロッシーニ的なイタリア歌劇の形式に依りながらも、ロシア民謡の旋律が加えられています。

《イヴァン・スサーニン》の初演が行われたのは、サンクトペテルブルクの宮廷大劇場。現在はマリインスキー劇場となっています

 

#2 バラキレフ 交響曲第2番/交響詩《ルーシ》

 

作曲者:ミリー・アレクセイヴィチ・バラキレフ(1837-1910)
作曲:1862-1890年

グリンカによってロシア独自のクラシック音楽が誕生した後、ロシア人の手による独自の音楽の創造を目指して立ち上がった「ロシア5人組」。5人組の指導者的存在として大きな影響力をもったバラキエフを筆頭に、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフは、音楽とその内容の結びつきを、リアリズムの音楽的形態と呼べるような美学に変え、ロシア国民学派の発展を支えました。バラキエフが作曲した交響曲第2番/交響詩《ルーシ》は、全曲がロシア民謡の旋律にもとづいており、その力強さと色彩の豊かさが魅力となっています。

写真提供:ナクソス・ジャパン

 

#3 ムソルグスキー 《ボリス・ゴドゥノフ》

 

作曲家:モデスト・ムソルグスキー(1839-1881)
作曲:1868-1869年

「5人組」として活動したムソルグスキー。機知に富んだ才能のあふれる作曲家でしたが、アルコール依存症から抜け出せなくなり、作曲活動も手につかないまま亡くなりました。ムソルグスキーが行った画期的な作曲方法、それはロシア語のピッチやリズムに合わせて旋律をつくるというものです。従来は旋律に合わせて歌詞を書いていたのですが、《ボリス・ゴドゥノフ》では言葉に合わせて曲をつくったためそこにはリアリティが生まれ、ロシア人に絶賛されたのです。

 

#4 ボロディン 《イーゴリ公》

 

作曲家:アレクサンドル・ボロディン(1833-1887)
作曲:1869年

グルジア皇室の皇太子の非嫡出子として生まれたボロディン。サンクトペテルブルクで生まれたものの、農奴の子として戸籍登録されました。ボロディンの作品で非常に素晴らしいのは、民俗音楽とヨーロッパの伝統的なスタイルを融合させたところ。12世紀のロシアを舞台に、だったん人に侵略されて捕虜になったロシアの皇太子を描いた、歌劇《イーゴリ公》は、ロシア音楽史のなかでもっともオリエンタリズム的な作品といわれ、西欧の人々に高く評価されました。

 

#5 リムスキー=コルサコフ 《スペイン奇想曲》

 

作曲家:ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1908)
作曲:1887年

精神的に似ているといわれている、スペインとロシア。両国はイスラム教諸国に隣接しており、ルネサンスという文化運動を経験したことがないという点が一致しています。グリンカもスペインを訪れた際に「母国にいるような感じがする」といったようです。《スペイン奇想曲》は、ロシア作曲家たちから好まれたスペイン民謡集から旋律を引用し、つくられました。

 

#6 チャイコフスキー 《弦楽四重奏第1番》

 

作曲家:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)
作曲:1871年

「ロシア5人組」と対立関係にあったといわれている、アントン・ルビンシテイン(1829-1894)に師事していたチャイコフスキー。ロシア民謡と西欧音楽の技法や、民族意識と個人の思想などを個性的なスタイルで組み合わせることが得意だったといわれています。《白鳥の湖》や《眠りの森の美女》などのバレエ音楽でも有名ですが、極めて叙情的で優美な《弦楽四重奏第1番》もおすすめです。この曲はあまりの美しさに、19世紀ロシアの文豪・トルストイが涙したといわれています。シューマンやベートーヴェンから影響を受けた西洋的な旋律のなかで吹くロシアの風を感じられる1曲です。

モスクワにある、チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院の大ホール

 

 

ロシアの民族音楽の要素を取り入れた作品から、オリエンタルで官能的な作品までを取り上げましたが、新しい発見はありましたか? 18世紀以前のロシア音楽は民族音楽と宗教音楽が主流なので、ロシアの独特な雰囲気が気に入ったら、そちらもチェックしてみるのもおすすめです。

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