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今、読みたい! 内藤理恵子『正しい答えのない世界を生きるための「死」の文学入門』

これからの生き方を、文豪たちの考えた「死」から学ぶ

連載 ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本 2020.12.28

編集部が新刊本を紹介する新連載「ZIEL編集部が選ぶ 今、読みたい本」。毎月の特集テーマと関連のある内容のものを選び、紹介していきます。
第3回目に紹介するのは、2020年11月27日に発売された内藤理恵子の『正しい答えのない世界を生きるための「死」の文学入門』。ZIEL1月の特集は、「死」をテーマにしています。「死」を経験から語れる人はいませんが、文学者たちは「死」をどのように考え、表現していたのでしょうか。

 

文豪たちが「死」をどのように感じていたのかがわかる1冊

夏目漱石、芥川龍之介、村上春樹——文学史を彩ってきた文豪たちの名作に登場する「死」にまつわるストーリーから、「死」をどのように考えていたのかを著者が考察した本書。
文豪たちが物語を執筆するにあたり、影響を受けたであろう作品や、人物、出来事などさまざまな角度から「死」に対するまなざしを読み解いていきます。また、日本の文学者だけでなく、ロシアのドストエフスキーやアメリカのウィンタースなど、世界の小説家や作品も登場します。

序章では、夏目漱石『こころ』を主題にしています。作品内に出てくる「K」に焦点をあてて、自死にいたった経緯や心情の揺れとともに、著者が登場人物の隠された思いを考察しています。

舞台は明治時代。主人公の「私」は鎌倉に海水浴に来ている大学生です。主人公がのちに「先生」と呼ぶ男性と、その鎌倉の海で知り合います。「先生」は謎めいた人物で、美しい妻(「奥さん」と「私」は呼ぶ)と暮らしています。いつしか主人公は「先生」に対して、年齢を超えた尊敬と友情がない混ぜになった感情を抱きます。やがて「先生」からの長い手紙が主人公に届きます。
手紙の内容は、「先生」とその友人「K」のエピソードでした。かつての若き「先生」と「K」は友人関係にあり、同じ下宿のお嬢さんを巡って恋のさや当てのような関係にあったこと、さらに「先生」の抜け駆けで「先生」とお嬢さんとの結婚が成立したこと、その結婚をきっかけに「K」が自死を選んだ(らしい)ことが、その手紙には綿々と綴られていました。しかも、主人公が手紙を受け取った時には、差出人の「先生」はもうこの世にはいない——「先生」がそのように計画的に主人公に送った遺書なのでした。

『正しい答えのない世界を生きるための「死」の文学入門』14-15ページ

本書では「K」の自死までに感じていた「不安」を、SNSが発達した現代人に重ね合わせて読み解いています。「フェイスブックであいつに『いいね!』がついたのに自分にはつかなかった」「ツイッターの少しのすれ違いで『嫌われたのではないか』と思い込む」、「LINEで既読がついたのに返信がこない」……など、SNS上での些細な出来事は、他人を自死にいたらしめてしまう「最後の一押し」になると警鐘を鳴らしています。
自死にはいたらないにしても、SNS上での些細な出来事がきっかけで関係が壊れてしまったり、問題に発展してしまうこともあるでしょう。正しい答えのない世界を生きている私たち現代人。小説が描く世界をきっかけに、私たちが抱える迷い、悩みについて考えをめぐらせてはいかがでしょうか

夏目漱石の『こころ』は、高校時代に国語の授業で習ったいたことを思い出し、なつかしい気持ちになりました。振り返ると、当時は知識として登場人物の気持ちを知ることが目的になっていたように思います。本書を読むことで新しい解釈や考え方へ導かれたので、もう一度作品を読み直したいと思えるきっかけになりました。
また、本書ではコラムの内容も充実しています。本編に加え、本の隅々まで読み応え抜群。ZIELの特集記事でも取り上げた、トルストイ(「トルストイ『人生論』から学ぶ、幸せな人生の幕の下ろし方(前編後編)」)やカミュ(【人間VS.新型コロナウイルス】感染症との「勝負」は成立するのか――アルベール・カミュ『ペスト』を読んで)も本作で取り上げられているので、ぜひ手に取ってみてほしい1冊です。

 

書籍情報
内藤理恵子
『正しい答えのない世界を生きるための「死」の文学入門』
発売:日本実業出版社
定価:1700円(+税)
発売日:2020年11月27日
ISBN:978-4-534-05819-5
https://amzn.to/3mNjKVW

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