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教えて佐々木先生! 日本の社会保障はこのまま機能するの?

立教大学経済学部准教授・佐々木隆治先生に編集部・出口と花塚が聞きました

特集 100歳までのお金の使い方 2020.10.30

構成:出口夢々

規制緩和や民営化が進み、介護や保育などの公的に保護されるべき領域が市場に出回るようになった日本。日本の社会保障はこのまま機能するのか、また年金システムが崩壊することはないのかを、立教大学経済学部准教授・佐々木隆治先生に伺いました。

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日本はもともと社会保障が脆弱な国

出口:昨年「老後2000万円問題」や「自助努力」が話題になりましたが、なぜこれほどまでに社会保障が機能しなくなってしまったのでしょう?

佐々木:社会保障がどんどん削られて民営化が進んだ、と「教えて佐々木先生! なんで日本の経済は低迷しているの?」で説明しましたよね。

花塚:はい。本来保障されるはずの介護や保育が民営化されて、金儲けの対象になったんですよね。

佐々木:そうです。社会保障が削られたのは確かなことなんですけど、日本はもともと社会保障が貧弱な国だったんですよ。
ヨーロッパでは、戦後の高度経済成長期に、しっかりと社会保障を充実させたんですよね。大学の学費の無償化や医療費の無償化、住宅も住宅政策を行って低価格で住宅を供給できるようにするなど、いわゆる「社会的基礎サービス」を無償、もしくは安価で提供できる体制をつくったんです。なので、社会保障が多少削られても、福祉国家の側面は残っています。

一方アメリカは、社会保障が貧弱であり、それが現在の医療保険の問題につながっています。ですが、労働組合の力は強かったので、日本の労働者と比べて給与が高く、ある程度物質的な豊かさを享受することができました。

ですが、日本人の給与は高度経済成長期においてもほかの先進国と比較して低水準でした。また、高度経済成長期にヨーロッパが社会保障の充実に財源を割いたのに対して、日本はダムや道路などの公共事業にお金を使いました。公共事業を行うことで企業にお金がまわるようにしたり、あるいは企業にとっての産業基盤を提供したりすることによって、企業から雇用されている人に対して富が分配されるしくみをつくったんです。

出口:企業の利益に依存して、人々の生活が安定する社会をつくったんですね。

佐々木:そうです。ただ、間接的なやり方なので現在のように経済が停滞してくると簡単に人々の生活状況が悪化してしまいます。それに比べて、社会保障の権利はいったん確立されると、そう簡単にはなくなりません。今の日本でも、いきなり医療を全面民営化するといっても無理ですよね。窓口負担を2割から3割にするくらいの変更しかできません。日本の場合、問題はその社会保障がかなり貧弱だという点ですね。

花塚:いまから社会保障を手厚くすることはできないんですか?

佐々木:できますよ。ですが、それには強固な社会的合意を得なければなりません。本気で今の世の中をよくしようと思っているなら、お金持ちや大企業にしっかりと課税して、その分を社会的基礎サービスの充実に回していく必要があるわけです。

ですが、それは資本主義の原理に反しますよね? 当然、そういうことをやると資本家が嫌がります。ですから、さまざまな社会運動をつうじて強固な社会的合意を形成しない限り、たとえ選挙で福祉に積極的な正当が政権の座についたとしても、その公約は簡単に覆されてしまいます。これが民主党政権のときに起こったことでしたね。

花塚:資本家にとっても、せっかく自分が得た利益をほかの人に無償で譲るのは抵抗がありますよね……。

佐々木:そうです。また、そういうシステムになると世界中の投資家は日本に投資しなくなったり、インフレになってしまう可能性があります。今、日本がこれだけ膨大な借金をしても問題ないのは、結局、日本が資本家にやさしい社会だからなんです。

いくら借金しても資本家が投資してくれるのでお金が回りますからね。また、お金持ちに富が集中し、普通の人の購買力が低下しているので、インフレの可能性もまずありません。だから、日本が資本家にやさしくない社会になった途端、日本経済が混乱に陥る可能性は大いにあります。

出口:社会保障を充実させるためには、そういう状況になるリスクを抱えながら、社会を変えなければならないのですね。

佐々木:だから、強力な社会的合意が必要になるわけです。そして、その合意のもと、累進課税を高くしたり、法人税を高くしたり、グローバル起票の脱税を防止したりして、資本家からお金をとるしくみをつくらなければならない。

出口:でも、こうした合意をとって、経済システムを変えないと、格差社会や気候変動、パンデミックの問題を解決できない……。今、我々はむずかしい立場にいるんですね。

でも、先ほど「社会保障の権利はいったん確立されると、そう簡単にはなくならない」とおっしゃられたということは、今ある社会保障が大きく減る可能性はないんですよね?

 

今後はさらに社会保障がなくなる

佐々木:いや、残念ながら減ります。これまでお話してきたように、いわゆる「新自由主義」の流れのなかで社会保障は削減傾向にありましたが、菅政権になって経済成長のためにさらに規制緩和を進めていこうという動きが強まっています。お金持ちにやさしい社会をつくって、近い将来、消費税をさらに上げていこうというのです。

出口:お金持ちを優遇して、所得の少ない人へ課税を増やすということですか?

佐々木:結局、現在のシステムを維持し、経済成長をしているふりを維持するためには、そうするしかないんですよ。規制緩和を進め資本を優遇する税制をとれば、資本家は日本国内にとどまり、お金を回す。お金が市場に出まわれば低金利も維持できるし、投資家が日本株を買うので株価も下がらない。そうして、金持ち優遇の国にして格差を拡大していくことでしか、資本主義というシステムを維持する術はないんですよね。

花塚:もしかして、今後、年金をもらえなくなる可能性もありますか?

佐々木現状でももらえる金額は減ってきていますから、その傾向が続くでしょうね。年金では足りなくて高齢者が貯金から切り崩していることは各種統計から読み取ることができます。だから、老後の資金として2000万円が必要だとかいう話が出てくるわけです。

また、これもよく言われることですが、日本の年金システムには逆進性があります。つまり、お金持ちほど保険料の負担割合が少なく、普通の人々の負担割合が高いんですよね。

あとは、公的年金ではなく、個人で加入する確定拠出年金や年金保険がいっそう出回ることになるでしょうね。外資系の保険会社が日本に進出してきて、またそこでお金を収奪されるのかもしれません。

出口:老後の資金が足りない分は、あとは働いて補うしかないんでしょうね。

佐々木:そうですね。経済のオンライン化やオートメーション化が進んだとしても、非正規をはじめとして悪条件で働ける雇用は増えているんですよ。日本では労働運動があまりに弱いため、非正規雇用のような低賃金労働が跋扈しているんですね。そして、ますます社会的に重要になっているサービス――介護や保育は総じて悪条件である場合が多い。ですから、悪条件の雇用であれば、働く場所はありますし、低賃金ではありますが、定年退職後でも給与はもらえますね。

ただ、それは果たして豊かな生き方なのでしょうか?「この年になって、こんな条件で仕事をしなければならないのか」と思ってしまう状況は決して豊かではありませんよね。豊かな生き方ができない、というのは仕事面だけではありません。気候変動やパンデミックによって、これまでのあたり前がお金では買えなくなってしまうのも、豊かさが減ってしまうということです。

急激に社会を変えるのは困難ですが、より豊かな老後を送れるようにするためにも、世界の「ジェネレーションZ」と連帯して、少しでも社会をよくしていきたいですね。

出口花塚:ありがとうございました。

 

日本の社会保障制度に関するあなたの考えを、コメント欄で教えてください!

 

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佐々木隆治

立教大学経済学部准教授。日本MEGA編集委員会編集委員。専門はカール・マルクスの経済理論、社会思想。マルクスのテキスト(著作、草稿、ノート、手紙)の精緻な解釈をつうじてその実像を解明しつつ、マルクス理論の実践的意義をわかりやすく示す一般書の執筆にも意欲的に取り組んでいる。著書に『増補改訂版 マルクスの物象化論』(社会評論社)、『マルクス 資本論』(角川選書)、『カール・マルクス』(ちくま新書)など。
佐々木隆治