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教えて佐々木先生! これからの経済はどうなっちゃうの?

立教大学経済学部准教授・佐々木隆治先生に編集部・出口と花塚が聞きました

特集 100歳までのお金の使い方 2020.10.29

構成:出口夢々

バブルさえ起きないほど経済が低迷していると語る、立教大学経済学部准教授・佐々木隆治先生。経済成長が望める領域があまり残っていないこと、また規制緩和や民営化によって格差社会が進んでいることなど、資本主義経済の限界が見え始めています。そのような状況において、今後の日本経済がどのように変化をしていくのか、伺っていきます。
▼これまでの経済状況について学べる記事はこちらから

 

これからはお金で解決できない問題が増大する

 

出口:限界が見えているなかで、資本主義経済は今後どのような道をたどるのでしょう?

佐々木:新型コロナウイルスの影響で、ずいぶんオンライン化が進みましたよね。ですので、今後もオンライン上でのプラットフォームの構築や、そうしたものに関係する設備を強化する分野に投資がされると思います。また、対面で作業をしづらくなったので、ロボットの導入によるオートメーション化がどんどん推進されていくことになりますね。

ただ、問題は、これらの分野に投資をしても、あまり経済成長が見込めないことなんですよ

20世紀型の資本主義というのは、経済規模が拡大して、雇用する人が増えていくと、社会的な富も増大するし、賃金も上がっていって、みんなの暮らしが豊かになっていくというストーリーでした。

でも、プラットフォームの構築やロボット化が進むというのは、結局、どんどん人手の必要性が低くなっていくわけです。だから、これからは人手を使って発生した経済的価値を搾取するというよりも、プラットフォームをどんどんつくり、ビッグデータやアルゴリズムなどを使って、できるだけ多くの人にそれを利用するように仕向け、利用料を徴収する、そういう資本主義に変化していきます。

いってみれば、土地の地代と同じですね。お金の力で知識やデータ、インターネット空間を土地のように独占的に所有して、そこから使用料をとっていくわけです。

花塚:雇用は減るのに、何かを使えば使うだけお金を払わなきゃいけないシステムになるんですね……。

佐々木:問題はこれだけではありません。これからは、お金だけでは解決できない問題が増えていってしまうんです。

出口:どのような問題が起こるのでしょうか?

佐々木:まず、気候変動による被害が毎年拡大していくことは間違いありません。今年の6~8月に中国が水害でひどいダメージを受けたり、大規模な山火事が世界中で頻発していますが、こういう規模の被害が世界中で拡大していくイメージです。日本でも集中豪雨や台風などの被害が大きくなっていますけど、これらがどんどん加速していくわけです。

また、氷床の急速な崩壊や海水の膨張によって海面が上昇したり、海水の温度上昇や酸化、さらには潮の流れの変化により漁獲量が大幅に減少したりするという予測も科学者たちによってなされています

気温が上がって暑くなり、水害が増えても、高台の頑丈な建物に住んでエアコンでがんがん冷やせばいいと思われるかもしれません。あるいは、海水の温度が上昇して魚が獲れなくなっていっても、お金を積めば買えるのでは、と。でも、そんなことができるのは一握りの富裕層の人たちだけですし、一度失われた自然の豊かさはどんなにお金を払っても取り戻すことはできません。

出口:たしかに……。

佐々木:今回の新型コロナウイルスのパンデミックもそうです。SARSやMARS、新型インフルエンザが発生した段階で、今回のような事態が起こることはある程度予測されていました。でも、実際は、新型コロナウイルスの流行拡大以前に、感染症対策を研究している研究所に対して助成金をカットする動きがあったわけです。

資本主義はお金儲けをしないといけないから、いつ起こるかわからないパンデミックに対してお金を割けないんです。それよりも、目先の問題解決のほうが儲かる。たとえば、今の社会では抗うつ剤をつくったり、EDの薬をつくったほうが圧倒的に儲かるんですよね。だから、そういった薬をつくる会社に投資をして、感染症の薬の開発にお金をまわせない。

10年、20年前から感染症対策の分野にお金を投資していたら、今頃は新型コロナウイルスのワクチンが開発されて、接種が始まっていたかもしれない。でも、今からお金をつぎ込んだところで、ワクチンの開発ができるのは数年後の可能性もある。つまり、お金があっても時間も知見もないからモノを手に入れられないんです。

 

資本主義からの脱却が唯一の希望

 

出口:利潤を追求しすぎたがために、このような事態を招いてしまった、と。人類の自業自得感が拭い切れませんね……。こんなにも資本主義の限界に直面しているのに、資本主義をやめるという選択はとれないのでしょうか?

佐々木:もちろん、私は共産主義の父とも言われるマルクスを研究しているような人間なので(笑)、そうなってほしいと心から願っていますが、短期的にそれを実現するのはかなりむずかしいです。我々は思っている以上にお金に依存しているんですよ

僕が子どもだったころは、資本主義とはいえ、まだ自給自足の面も残っていたと思います。洋服も親が縫ったものを着ていたりとか、あるいは地方では食料調達はかなり自給自足でやっていたのではないでしょうか。でも、市場経済が広まってくると、自分たちで生活を営むというよりは、働くことで誰かからお金をもらって、そのお金で何かを買うという生活になるんですよね。

僕は農業もできないし、洋服もつくれません。そうなると、お金に頼るしかないんです。お金に頼ると、結局、お金をたくさんほしいと思いますよね。そして、お金がほしいと思うということは、お金が手に入りやすい社会になってほしいと思う。それにより、どんどん資本主義を応援するようになります。

花塚:悪循環だとわかりつつも、その流れに乗るしか選択肢がないのですね。

佐々木:また、みなさん借金がありますよね? お金持ちの人はともかく、普通の所得の人が家を買おうとする場合、多額の借金をします。また、大学に進学するにあたり、奨学金という名の教育ローンを組んだ学生もいると思います。そうなると、お金がほしい/ほしくないという問題ではなく、お金が手に入らないとにっちもさっちもいかない。お金にがんじがらめにされているんですよ。

出口:お金がないとどうしようもない状況に追い込まれているんですね。

佐々木:そうなんです。ただ、一方で希望はあります。最近、欧米では資本主義に批判的な若者が増えているんですよね。このことは投票行動の分析からもはっきりとわかります。とくにお二人のような90年代半ば以降に生まれた世代は「ジェネレーションZ」と呼ばれていて、その動向が注目を集めています。

アメリカでは高い学費を払って大学を卒業しても、もはや親世代と同じくらいの給料をもらえる状況ではないですし、世界的にみても気候変動がどんどん深刻化しているので、未来ある若者たちが資本主義をやめてしまおう、と思うのは当然ですよね。だから、そうした人たちが声を上げていけば、社会が変わるのではないでしょうか。
そして、そうした声が大きくなれば新しいタイプの社会主義が生まれるかもしれません。

出口:社会主義って、生産手段を共有化して、平等な社会を目指す思想ですよね。社会主義と聞くと、どうしてもソ連のような社会を想像してしまいますが……。

佐々木:そうですね、国家が経済を中央集権的に統制しようとして失敗したイメージが強いと思います。
そうではなくて、ある種の「草の根社会主義」ともいえると思うのですが、資源や知識、プラットフォームを資本に独占させるのではなく、前近代社会にあったような入会地のように、だれもが自由にアクセスできる「コモン(共有地)」にして、自分たちで管理していくシステムが構築できればいいと思うんです

こういったシステムを若者たちや重要な労働を担っているエッセンシャルワーカーの人たちでつくれるようになれば、資本主義から脱却できるかもしれません。

なので、今後は、地球環境が悪化し経済が停滞しようとも資本主義にしがみ続けようとする動きと、限界がみえてきた資本主義に代わる新しい経済を生み出していこうとする動きが争っていく時代になるのではないでしょうか

 

日本の社会保障がどのように変化していくのかは、こちらの記事をチェック!

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佐々木隆治

立教大学経済学部准教授。日本MEGA編集委員会編集委員。専門はカール・マルクスの経済理論、社会思想。マルクスのテキスト(著作、草稿、ノート、手紙)の精緻な解釈をつうじてその実像を解明しつつ、マルクス理論の実践的意義をわかりやすく示す一般書の執筆にも意欲的に取り組んでいる。著書に『増補改訂版 マルクスの物象化論』(社会評論社)、『マルクス 資本論』(角川選書)、『カール・マルクス』(ちくま新書)など。
佐々木隆治

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