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教えて、佐々木先生! なんで日本の経済は低迷しているの?

立教大学経済学部准教授・佐々木隆治先生に編集部・出口と花塚が聞きました

特集 100歳までのお金の使い方 2020.10.28

構成:出口夢々

不景気、感染症の流行、オリンピックの延期――。今後の社会情勢がさらに見えにくくなった今、将来のことを考えると、「年金はちゃんともらえるのか」「退職後も働ける環境はあるのか」など、どうしても不安になりがち。

その漠然とした不安を解決すべく、今、日本の経済はどのような状況にあるのかを、立教大学経済学部准教授・佐々木隆治先生に伺いました。

 

経済低迷のカギとなるのは資本主義のしくみ

 

出口:新型コロナウイルスの発生・拡大や、東京2020大会の延期などで、日本経済が低迷していると感じているのですが、どうしてこのような状況になってしまったのか、教えてください。

佐々木:こうなってしまったのには、資本主義のしくみが大きく影響しています。出口さんは資本主義とは何かわかりますか?

出口:資本家が労働力を買って、そこで生産されたモノを売って利潤を得る……みたいなシステムですよね……?

佐々木:そうですね。資本家が労働力を買って、そこで生産されたモノを売るわけですから、利潤を大きくするためには、売る物の価格と労働力の価格に大きな差をつけたほうがよいわけです。そこの差額が利潤となり、資本家の懐に入っていくわけですから。このしくみを、なんとなく頭に入れておいてください。

花塚:(むずかしい話になりそう……)

佐々木:出口さんは先ほど「日本経済が低迷していると感じる」とおっしゃいましたよね? 実は、資本主義とはもともと限界のあるシステムなんですよ

出口:限界があるんですか?

佐々木:はい。どうしても、好景気と恐慌が起こってしまうという特性をもったシステムなんです。
資本主義は500年くらい前から始まって、今のようなかたちの資本主義が生まれたのは200年程前――19世紀のこと。

現代社会で「恐慌」と聞くと、めったに発生しない出来事のように思うかもしれません。しかし、今の資本主義のかたちができたてほやほやだった19世紀では、好景気になったり、恐慌が起きたりというのを、10年おきに繰り返していたんですよね。恐慌が起きると失業者がたくさん生まれ、世の中が不安定になりますから、そこから社会革命が起きることもありました。

また、そのころ、資本主義の中心地はヨーロッパでした。なので、そこから海外に進出していって、「近代化」されていない国を植民地支配し、労働力や富を収奪していきました。労働力や原料を安く買って物を生産できれば、利潤は大きくなりますからね。

花塚:(さっき佐々木先生が言っていた資本主義のしくみだ……!)

佐々木:でも、このような資本主義がうまくいっていたのは、1960年代まで。1970年代くらいから、このシステムが世界的に揺らいできたんです。

そもそも、20世紀前半にロシア革命や世界恐慌、そして二度の大戦で危機に陥った資本主義が戦後に立ち直り、高度成長を遂げることができたのは、戦争でいろいろなものが壊れてしまったから

壊れてしまったものを立て直し、車や電化製品といった、それなりに高価で、これから普及していくものを生産したので、経済成長率が高かったんですよね。また、植民地支配は終わったものの、まだまだ発展途上国の力は弱かったので、石油などの原料をすごく安い値段で手に入れることができました。

花塚:生産すべきモノがたくさんある状況と、生産に必要な資源を安く手に入れられる状況が重なって、経済が成長できたんですね!

佐々木:そのとおり。また、19世紀は10年ごとに好景気と恐慌を繰り返していたといいましたが、その波を小さくするために、市場に国家が介入するようになったんです。財政出動や社会保障の手当をして、極端な不況がこないような策をとったので、持続的な経済成長ができました

 

経済成長の盲信に憑りつかれた現代社会

 

出口:持続的に経済成長ができていたのに、なぜ1970年代から成長しづらい状況になってしまったんですか?

佐々木経済成長する理由がなくなったからですよ。戦争から復興し、さらに自動車や家電などの耐久消費財がある程度普及して、新たにモノを増産する必要性が低くなってしまったのと、発展途上国が力をつけてきたので原料を安く買えなくなっていった。

でも、資本主義を成立させるためには、どんどん利潤を生み出さなければなりませんよね? そこで採ったのが規制緩和や国の事業を民営化する、という方策ですただ、このやり方で利潤を増やすことはできますが、もう一度高度成長できるほどの市場の広がりをつくることはできません。そのため、資本家にとっては金余りの状態になり、この資産を運用しようと金融市場に流れ込んでいきました。その結果、バブルが世界中で次々に発生したのです。

要するに、規制緩和や民営化を進めると、弱い立場の人が国から守られなくなる一方で、資本家――つまり、お金を持っている人たちがどんどんお金持ちになります。そして、あまり実体経済が成長しない状況でお金持ちがどこに投資するかというと、金融市場です。金融市場にお金が流れると、バブルは起きやすくなる。

出口:それがわかっていながら、なぜ規制緩和や民営化は今もなお進められているんですか?

佐々木:資本主義は利潤の生産を目的とするシステムだからですよ。逆に言えば、利潤を生まなければ資本主義は機能しない。資本主義である以上、利潤を生まなければならず、そのためには経済成長が欠かせません。けれども、今はどれだけ「経済成長」を叫んでも実体経済は低迷を続けている。

だから、なんとか利潤を増やそうとどんどん規制緩和をして、公的に保障すべき介護や保育を民営化して、お金儲けの道具にする。資本主義を機能させようとするかぎり、そうせざるを得ないわけです。

また、言ってしまえば、今はバブルさえ起きないほど、経済成長が低迷しているんです。もろもろの「改革」によって社会保障制度が悪化した結果、普通の所得の人の購買力が極端に落ちているし、非正規雇用が増大しているから賃金も下がっている。こんな状況で起きたのが、新型コロナウイルスの発生・流行拡大です。

出口:なるほど、資本主義のそもそものしくみや規制緩和、新型コロナウイルスの発生など、さまざまな要因が複合的に絡んで、このような事態になっているのですね。

 

これからの経済がどのように変化していくのかは、こちらの記事をチェック!

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佐々木隆治

立教大学経済学部准教授。日本MEGA編集委員会編集委員。専門はカール・マルクスの経済理論、社会思想。マルクスのテキスト(著作、草稿、ノート、手紙)の精緻な解釈をつうじてその実像を解明しつつ、マルクス理論の実践的意義をわかりやすく示す一般書の執筆にも意欲的に取り組んでいる。著書に『増補改訂版 マルクスの物象化論』(社会評論社)、『マルクス 資本論』(角川選書)、『カール・マルクス』(ちくま新書)など。
佐々木隆治

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