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吉田みのりさん「我慢の冬。8カ月の時を経て、フィンランドに春が訪れる」

北欧の生活から得る、春の生活のヒント①

特集 春こそ、人生に祝福を! 2021.3.12

写真:吉田みのり
取材・文:出口夢々

コロナ禍で制限のある暮らしを強いられる、2021年の春。そんな環境だからこそ、新たな季節の訪れをより祝福したい。そこで、祝福の仕方を、長い冬を越えて春を迎える北欧の暮らしから得るのはいかがでしょうか?
フィランランド在住の吉田みのりさんに、冬のフィンランドの様子や、フィンランド暮らし1年目に、8カ月間の冬を経て迎えた春の様子を伺いました。

 

何もしたくなかった1年目の冬

 

——吉田さんは2014年の3月からフィンランドで生活されているんですね。この3月で移住して8年目を迎えられたわけですが、吉田さんがフィンランドではじめて迎えた冬はどのようなものでしたか?

吉田精神的にすっごく落ち込みました。フィンランドに引っ越すことを決めたとき、現地の友人から「絶対に冬はきつくなるよ」「フィンランドの冬は長いんだよ」と言われていたんです。でも、仕事の関係で月に1回はフィンランドに出張していたし、冬のフィンランドには3回訪れたことがあるから、なんとなく冬のイメージもできて。「冬になればクリスマスもイルミネーションもあるから、楽しんで過ごせるだろうな」と思っていたんですけど、全然ダメでした。

友人に聞いていたとおり、冬が本当に長いんですよ。フィンランドの夏は6月から8月。そして、8月15日くらいにいきなり夏が終わって、突如、太陽の出ない、どんよりと曇った日々が始まるんです。夏は夜の12時まで日が出ているので、夜でも海に行って友人たちとピクニックをしたりしていたんですよね。フィンランドではどんなに仕事が忙しい人でも、夏は週に1回、ピクニックをするんです。でもそれが、8月15日を境に友人からの誘いが完全になくなって、みんな外に出なくなり、暗い顔になっていく。

真っ暗な公園をバスから撮った写真。正午ごろでこの暗さ

吉田:「クリスマス楽しみ!」なんて思っていた私でしたが、8月15日からクリスマスがある12月まで4カ月もあるじゃないですか。次の楽しみがやってくるまで長いですよね。それに、一日中暗いから、季節性鬱のような状態になってしまって、何をするにもやる気が出なくなってしまったんです。友人に誘われても外に出るのが億劫で行かないし、好きなことをして楽しもうという気持ちもなくなってしまって。移住1年目は仕事がなくてお金がなかったので、行動により制限がかけられていたんですよね。それも相まって、すごく落ち込みました。

——吉田さんはフランスで暮らしていた経験もお持ちだと伺いました。西ヨーロッパの冬も暗いイメージがありますが、フランスの冬を経験していてもフィンランドの冬は厳しかったのですね。

吉田:フランスはフランスできついものがありましたね。建物が古いし、暖房もあまり効かないから底冷えするというか。寒さのせいで、いつもどこかしらの身体の調子が悪かったなと思います。あと、パリは気温が3度くらいと、中途半端に寒いので、スカートを履いたりとおしゃれな格好をしている人もいるんですよね。私だけ「これからスキーに行くんですか?」みたいな格好をしているシーンがあったりして、それが恥ずかしかった思い出があります。かと言って、おしゃれをして薄着をしたら風邪をひいてしまいましたし(笑)

でもフィンランドは、室内は暖房がしっかり効いていて暖かいんです。その分、フランスよりマシかなと思います。外はマイナス7度と寒いですが、外に行くときは、タイツを履いてその上にズボンを履いて、さらに雪除け用のウインドブレーカーのようなズボンを履く。分厚いコートの上からマフラーを巻いて、ニット帽を被る。このように、全員が全員着込んでいるので、おしゃれを気にしないでいいし、全力で防寒できるのがいいかなと思います

ヘルシンキの冬の公園。雪が積もるとほんのり明るくなる

とはいえ、やっぱり冬の長さが厳しい。フランスだと1年でもっとも寒い1月でも外で屋台のクレープを食べたりして楽しめますが、フィンランドで屋外でものを食べられるようになるのは4月。8月15日から約8カ月経たないと屋外でごはんを食べられないというのは結構きついんですよ。なかでも一番堪えるのは11月です。暗い日々が始まって2カ月、クリスマスが来るまであと1カ月、クリスマスが終わっても春が来るまで5カ月——そう考えると、待っても待っても春は来ないのではないかと思ってしまうほど、落ち込んでしまうんです。

——夏は夜中まで明るいとはいえ、1年の半分以上が暗いとなると、そのギャップに身体も驚いてしまいそうです。

吉田:はい。そして、暗くて寒く、気温が氷点下を下回る期間が半年以上あるということは、作物もあまり育たないということなんです。フランスでは3月になるとホワイトアスパラガスなどの春を告げる野菜や果物がどんどん出てくると思うんですけど、フィンランドで春の食材が出回るのは4月なので、それまでのあいだ、冬に採れるものしか食べられないんですよ。

それに、日本やフランスだと冷たい海があるので、牡蠣や冷たい海で育って身が引き締まったブリ、白子など、冬ならではのおいしい食べ物が出てきますよね。でも、フィンランドは内海なので、冬だからこそおいしいと言われる魚があんまりないんです。いくらなどの魚卵やカワメンタイがおいしいと出回ったりはしますが。旬の食べ物がどんどん出てくると、寒くても楽しいじゃないですか。なのに、フィンランドではそれがない。なので、とにかく我慢しながら春を待つしかなくなってしまうんです

 

春の風物詩は “Tシャツ短パンお兄さん”

 

——そんな冬を乗り越えて迎えた春は、吉田さんの目にどのように映りましたか?

吉田「やっと春が来てうれしい!」という感情を抱いた記憶がないくらい、落ち込んでいたんです(笑)。でも、まわりの人たちの様子が豹変したことにドン引きしたことは覚えています。春になるとみんな、すっごく明るくなるんです。フィンランドでは基本的に世間話をしないんですけど、街を歩いていると「いやー、天気もいいし最高だね! 今日は仕事が終わったらスケボーに行くんだ!」と話しかけてくる人が多くなって。「イタリア人か!?」と思うくらいカジュアルな対応をする人が増えるので、驚きました。

4月中旬くらいになると「ちょっとあったかいな」と感じるくらいの気温になるんですよ。大体5度から10度くらいでしょうか。まだまだ寒いんですけど、もう明らかに冬は戻ってこないだろうと思える気温なんです。そうなると、絶対、街中にTシャツ短パンでアイスを食べるお兄さんが出没します(笑)。フィンランド人も「わー、あの人は春が来たのが本当にうれしいんだね」「変わっている人がいるね」というテンションで見ているんですけど、毎年かなりの数の目撃情報がある。そのくらい、春がくるとみんな身体全体で喜びを表現しているんだと思います。フィンランドの春の風物詩ですね。

雪が溶けてきて、春の到来の予感が漂う街並み。冬に青空が見えるのは珍しい

 

  1. ふっちゃん

    四季がある日本はいいですね 

    • 出口夢々(ZIEL編集部)

      1年間で4つの季節を感じられて、なおかつ毎回美味しい食材が出回る——あたりまえのことのようにも思っていましたが、フィンランドの暮らしを知って、日本の素晴らしさを再確認できました!(出口)

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吉田みのり

1983年宮崎県生まれ。国際基督教大学にて仏語と哲学、お茶の水女子大学大学院・パリ第7大学にてジェンダー開発論・フェミニズム理論を学ぶ。フィンランド系企業に勤務し、2014年フィンランドへ移住。現在はIT会社に勤務しながら、ヘルシンキで和食や日本酒を提供する居酒屋を経営している。現在、ライフスタイルメディア「ノースモールプラス」にて「北欧 フィンランドからの手紙」を連載中。 https://p.northmall.com/category/letterfromfinland/
吉田みのり