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「みんな」が発信する情報を信じる? 信じない?

歳を重ねると、1つの情報に固執してしまう理由

特集 「みんな」と「わたし」――がんばらない人間関係の秘訣 2020.11.30

取材・文:花塚水結

インターネットの普及により、誰もが情報を発信し、受け取ることが簡単にできる情報社会となりました。信頼できる情報を簡単に得られる一方で、何の根拠もない情報も溢れています。こうした情報が一緒くたになっているため、私たちには情報をいかに選別し、見極めることが求められます。

私たちは、溢れる情報とどのように向き合っていけばいいのでしょうか。新しい情報に出合ったときの人間の脳の働きや、危機にさらされるような情報を得たとき、どのように行動すればよいのでしょうか。脳科学者の細田千尋さんにお話を伺います。

 

情報を集めるときに「確証バイアス」がかかっている

花塚:テレビやインターネット、そして噂といった、たくさんの情報源から自分が求めていて、かつ信頼できる情報を選ぶには、どうすればいいでしょうか?

細田:今花塚さんが言われた、「自分が求めている情報」というのが、実はポイントになっています。

花塚:どんなポイントですか?

細田:心理学的な専門用語で「確証バイアス」というものがあります。
「確証バイアス」とは、人間の「思い込み」によって「自分にとって都合のいい情報」だけを集めてしまうこと。そして、それが正しい情報であるか客観的な判断をしにくくなり、その情報が正しいと思い込んでしまうことを言います
寝つきが悪くてよく眠れないとき、花塚さんならどうしますか?

花塚:そうですね……ネットで「どうしたら眠れるようになるのか」を調べてみます。

細田:おそらく、多くの人がそうするんじゃないかと思います。ただ、その際に自分が納得できる情報や、その時点で自分が一番信じている情報ばかりが入ってくるようになるんです

たとえば、「寝る前にこの薬を飲むと眠れるようになる」と聞いたりしたことがあって、その情報を信じながら調べるとしますよね。そうすると、「その薬がいいですよ」と謳っている情報ばかりが入ってくるようになるんです。

花塚:どうしてでしょうか?

細田自分が信じている情報に対して否定的な情報より、肯定的な情報のほうが「自分にとって都合のいい情報」だからです
自然と同じようなことを言っている肯定的な情報ばかりが入ってくるので、「その薬を飲むと眠りにつきやすくなる」と、確証に変わるんですね。この確証バイアスに引っ掛かってしまうことはありますね。

このように「思い込み」が自分の意思決定に強く影響されます。よく、「私は騙されないぞ」と思っている人のほうが騙されやすいと言われているのは、「思い込みが強い人」だからということなのかもしれませんね。

脳科学者・細田千尋さん。確証バイアスは、人間の心理として自然に存在するため、誰もが気をつけなければいけないと話す

花塚:どうすれば、信頼できる情報を得られるようになるでしょうか?

細田:基礎的な知識をつけることが大事だと思います。
たとえば、メディアではよく「右脳を鍛えると頭がよくなる!」とか、「脳には男脳・女脳があって、男だから〇〇、女だから〇〇」なんて言われることもあります。「脳」という言葉を利用して、さも科学的根拠があるように思えてしまいますが、実は科学的な根拠はありません。「脳科学が〜」などと書いてあると、その情報が正しいと思いがちなんです。

誤った情報もあるなかで、正しい情報を見抜くためには、ネットや流行だけにのって情報を引っ張ってくるだけではなく、客観的な視点から広く、基礎的な知識をつけることが必要だと思います。何にせよ、思い込まないことが大切です。

花塚:どのような知識をつければいいのでしょうか?

細田物事を多面的に捉える癖をつけることが重要だと思います。また、知識の幅を広げることも大切ですね。いろんな知識を持っていることは、客観的な事実を多方面から見る力を鍛えるうえでも重要なので、そうした力が養われれば、1つの情報に対して、さまざまな角度から考えることができるようになるでしょう。

 

キャッチーなニュースに快楽を感じる脳

花塚:以前、新型コロナウイルスの影響でトイレットペーパーが生産できなくなるというデマが拡散されて、それを信じた人が実際にトイレットペーパーを買い占め、店頭からトイレットペーパーが消えるという事態が起こりましたよね。デマを拡散するときに脳のしくみはどのようになっているのでしょうか?

細田:人間は新しいキャッチーな情報に対して、強い興味を持つ傾向にあります。そして、そのような情報は脳の報酬系の活動にも繋がり、その情報に食いつきやすくなります。
虚偽情報やフェイクニュースって、キャッチーですし、人々の興味を惹く文言が並んでいますよね。ですから、脳がその情報に快楽を感じてしまうのです

これは、マサチューセッツ工科大学の研究者らによる調査でも明らかになっています。その調査結果によると、フェイクニュースは正しいニュースよりも、70%多く拡散されやすいという結果になりました

花塚:70%も多いのですか! たしかに、キャッチーなタイトルがつけられた記事はつい見たくなってしまいますし、私も編集者としてよりキャッチーなタイトルをつけたいなと考えてしまうんですよね。

細田:そうですね。また、人の不幸に反応してネガティブな情報を拡散してしまうこともあります。特に、地位が高かったり、高価なものを持っていたり、自分より多くのものを持っている人が失敗するのを見ると、脳がそれを喜びとして感じます。

花塚:芸能人の不倫が大きくニュースになってしまうのも、自分よりも多くのものを持っている人が失敗する姿に、脳が喜びを感じてしまうからなんですね……。

細田:はい。「他人の不幸は蜜の味」なんて言いますけど、自分がもやもやしている状態で他人の失敗を見ると「ほらみろ」と脳が喜び、広めたくなってしまうこともあるかもしれません。

 

歳を重ねると前頭葉の機能が低下するため、意識的に「抑制」する

花塚:デマやフェイクニュースといった、虚偽情報に騙されないようにするためには、どうすればいいでしょうか?

細田1つの情報に固執しないで、なるべくたくさんの情報に触れることが重要だと思います
たとえば、自分の支持する考え方があった場合、その考え方を肯定する情報ばかりを読みがちですよね。同じ視点からの情報を拾うことになるので、情報の発信元の思想に固執してしまうでしょう。

インターネットの情報も同じですよね。誤った情報と関連した情報ばかりを拾っていると、その誤った情報をサポートするような情報ばかりが集まってくる可能性があります。なので、できるだけいろいろな角度からの情報を得ることが大事です。

細田:ただ、歳を重ねるほど、社会的にかかわる人数が減ってきたり、見る情報源が限られる可能性が考えられます。そうすると、触れる情報の量が少なくなるので、ひとつの考えに固執しやすくなっている傾向はあるかもしれません。
「高齢者だから」というのは理由にはなりませんが、高齢になるとどうしても認知的な機能が衰えてしまいますし、生活のパターンが決まって、関わる人も入ってくる情報の経路も限定的になってくると、当然、情報が偏ってしまうんですよね

特に現代は自分で情報を選ぶ時代ですから、情報の選択を間違えてしまうと、どうにもなりません。自分で新しい情報源を追い求め、そこから情報を得る。納得できる情報に出合ったとしたら、今度はそれに対する反対意見を探す。そのうえで自分の意見を持ってほしいと思います。

花塚:その人の状況や環境によっては、情報が限られてしまうことも考えられますね。

細田:そうなりますね。でも、情報源が限られていたとしても過剰に反応したり、すぐに行動したりせず、「抑制」することが大事です

花塚:行動したいという欲を抑えるのですね。

細田:はい。新しくて、おもしろい情報に出合ったとき、すぐに行動に移したくなってしまう人も多いのです。おいしいものを目の前にしたとき、「全部食べたいなぁ」と考えることってあるじゃないですか。そこで、「でも食べないほうがいいな」と思うことが抑制です。

トイレットペーパーの買い占め騒動も、「トイレットペーパーが不足する」と情報が出た後に、国や製造業者から「生産は間に合っていますよ」と情報が出ましたよね。でも、行動を先走る人がいたから、大きな騒動になってしまった。情報が出た時点で、みんなが「自分だけ」と思わずに、一回考える時間を設けるといいと思います
一方で、この抑制が高齢になるほどむずかしくなるのも事実です。

花塚:どうして、高齢になると抑制がむずかしくなるのでしょうか?

細田:欲求を抑制を行うのは脳の前頭葉という部分なのですが、高齢になると前頭葉の機能が衰えてしまうことがわかっています。ですから、抑制しにくくなっている一面があるのかもしれません。
でも、「一回止まって考える」という行為は意識すればできることです。意識的に一回止まって考えるようにして、行動を抑制していけばいいと思いますよ。

また、「やらない」ことに対する不安もあると思うんですよね。たとえば、「トイレットペーパーを買っておかないと手に入らなくなってしまうのではないか」という、行動を起こさないことへの不安です。この不安をコントロールするもの前頭葉が担っている自己制御なので、特定の情報への過度な信者になってしまうことも含めて、何事も自己コントロールをすることが大事ですね

 

みなさんはどのような情報源から情報を集めますか? コメント欄で聞かせてください!

 

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細田千尋

医学博士、専門は認知科学、脳科学。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員 /帝京大学戦略的イノベーション研究センター講師を兼任。英語やプログラミングなどの勉強、スポーツ、新しい技術への適応、ダイエット等の健康行動、リハビリなど、あらゆる分野での成功に必要なやる気や自己制御、認知能力の個人差と、個人の能力を最大化するための手法について、幼児から高齢者までを対象に、認知科学、脳科学、情報学の視点から研究をしている。脳から個人特性を予想する判別機を作成し、国内国際特許を取得のほか、その研究成果は多数のメディアでも取り上げられている。
細田千尋

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